先日実家に顔を出したとき、お母さんが「最近トイレに行く回数が増えて、行ってもあまり出ないことがある」とぽつりと話していて、少し心配になった方もいるのではないでしょうか。寒くなると水分を控えがちになり、トイレに行く足も重くなるため、膀胱炎や尿路感染症(UTI)のリスクが上がりやすい季節です。この記事では、冬に高齢者の膀胱炎・尿路感染症が増える理由と、家庭でできる予防の工夫、受診の目安までをまとめました。
なぜ冬は膀胱炎・尿路感染症が増えるのか
膀胱炎や尿路感染症は、体の抵抗力が落ちているときや、トイレを我慢する習慣が続いているときに起こりやすくなります。冬場はいくつもの要因が重なり、こうしたリスクが高まる季節だといわれています。
水分を控えがちになる
「トイレに行くのが億劫だから」「夜中に起きたくないから」という理由で、高齢の親が水を飲む量を自分で減らしてしまうことは少なくありません。実際、喉の渇きを感じにくくなる方も多く、気づかないうちに水分摂取量が減っているケースもあります。尿量が減ると膀胱の中で細菌が増えやすくなり、感染のリスクが上がります。一日に何度もトイレに行くことを気にする方ほど、無意識に水分を減らしてしまう傾向があるため、家族が気づいてあげることが大切です。
体の冷えと血流の低下
寒さで体が冷えると、骨盤周りの血流が滞り、膀胱や尿道の粘膜の防御力が落ちやすくなるといわれています。特に冷たいトイレで用を足す時間が長い家では、下半身が冷える機会がそれだけ増えてしまいます。
我慢する癖とトイレへの移動のつらさ
足腰が弱ってトイレまでの移動が億劫になると、「もう少し我慢しよう」という場面が増えます。また、紙おむつや尿もれパッドを使っている場合、交換の間隔が空きすぎると細菌が繁殖しやすい環境になることもあります。すでに頻尿や尿もれが気になっている方は、親の尿もれのサインに気づいたら|紙おむつの選び方も合わせて参考にしてみてください。
季節的に免疫の働きが落ちやすい
冬は空気が乾燥し、体温を保つために多くのエネルギーを使う季節です。加齢とともに体力の消耗が回復しにくくなっている方は、普段なら気にならない程度の疲れが、感染への抵抗力の低下につながることもあるといわれています。持病で通院している方は、冬場の過ごし方についてもかかりつけ医に相談しておくと安心です。
今日からできる予防の工夫
膀胱炎・尿路感染症は、日々のちょっとした習慣の積み重ねで予防しやすくなるといわれています。難しいことではなく、まずは次のような工夫から始めてみてください。
今日からできること
- 起床後・食事どき・入浴前後など、時間を決めて少しずつ水分を摂る
- トイレや脱衣所を暖かくし、便座カバーなどで座面の冷えを減らす
- 腹巻や厚手の靴下で下半身を冷やさない服装にする
- トイレを我慢しすぎず、こまめに行く習慣をつける
特に座面の冷たさは、見た目以上に体への負担になります。我が家でも、洗浄暖房機能のない和式トイレが残る部屋があり、便座カバーを一枚敷くだけで母の「トイレが寒くて行くのが嫌」という言葉がぐっと減ったのを覚えています。小さな工夫でも、本人の行動が変わるきっかけになります。
家族が連携してできること
水分摂取は本人の意識だけに頼らず、家族からの声かけも効果的です。「お茶を一緒に飲もう」「このコップ一杯だけ先に飲んでおいて」など、負担に感じさせない言い方を工夫してみましょう。来客時や電話のたびに「今日はどのくらい水分摂れた?」と聞くだけでも、本人が水分摂取を意識するきっかけになります。
入浴後の湯冷めを防ぐ
入浴のあとに体が冷えてしまうと、せっかく温まった血流がまた滞ってしまいます。脱衣所を暖めておく、入浴後は早めに体を拭いて靴下や腹巻を身につけるなど、湯冷めを防ぐ一手間が予防につながります。「お風呂上がりは急いで着替えてね」と声をかけるだけでも、本人の意識が変わることがあります。
なお、日常使いできるアイテムとしてこちらも参考にしてみてください。
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座面の冷えをやわらげたい方に
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少しずつ飲める習慣づけに
注意点・よくある失敗
予防を心がけていても、見落としやすい点がいくつかあります。特に次のようなケースは注意しておきたいところです。
「トイレの回数を減らしたいから水を飲まない」という考え方は、本人なりの工夫のつもりでも逆効果になりやすい典型例です。また、紙おむつやパッドを「もったいないから」と長時間交換しないまま使い続けることも、肌トラブルや感染のリスクを高めてしまいます。交換のタイミングは本人の感覚だけに任せず、家族が目安の時間を一緒に決めておくと安心です。
市販のサプリメントや健康食品を「これを飲んでいれば大丈夫」と自己判断で続けてしまうのも避けたいパターンです。体に良さそうな情報はたくさんありますが、特定の商品やサプリメントだけで予防や改善が確実になるわけではありません。気になる症状があるときは、まず医療機関で相談することを優先してください。
一度症状が落ち着いても、繰り返しやすい方もいます。再発を繰り返す場合は、生活習慣の見直しだけで様子を見るのではなく、泌尿器科などの専門医に経過を相談しておくと、本人も家族も安心して過ごせます。
こんな様子が見られたら、早めに相談を
トイレの回数が極端に増えた、排尿のときに痛みや違和感を訴える、尿のにおいや色がいつもと違う、発熱や倦怠感があるといった様子が見られたときは、自己判断で様子を見続けず、かかりつけ医や泌尿器科に相談してください。高齢者の場合、発熱などの典型的な症状が出にくく、「元気がない」「食欲が落ちた」といった変化だけが先に現れることもあるといわれています。少しでも気になる様子があれば、地域包括支援センターに相談してみるのも一つの方法です。
この記事で紹介した内容は一般的な情報であり、個別の診断や治療の代わりになるものではありません。実家に帰省する機会があれば、血圧計で日々の体調を確認している方も多いと思いますが、高齢の親の血圧計選び|秋の温度差と測り方のコツと同じように、トイレの様子もそっと気にかけてあげてほしいポイントです。すでに夜間のトイレで転倒が心配な場合は、夜間トイレの転倒が心配|ポータブルトイレの選び方も参考になります。
体の声に気づけるのは、近くで見てきた家族だから
膀胱炎や尿路感染症は、本人が「年のせいだから」と我慢してしまいがちな体調の変化です。以前、80代で一人暮らしの親御さんを持つ知人が、電話口で「最近トイレが近いみたいだけど元気そうだから大丈夫」と話していたのを思い出します。実際に会ってみると、本人も気づかないうちに水分を控えていたことが分かり、ちょっとした会話がきっかけで早めの対処につながったそうです。帰省のたびに「トイレの様子はどう?」とさりげなく聞いてみることが、早期の気づきにつながります。今年の冬は、便座カバーや水分補給のグッズを一つ実家に届けるところから始めてみてはいかがでしょうか。
この記事の執筆者について
介護福祉の現場で22年以上、訪問介護や高齢者施設での勤務、自宅での家族介護を経験してきました。現在も遠方に暮らす高齢の家族がおり、「離れて暮らす家族を見守る」ことの難しさを実感者として日々感じています。本記事も、そうした現場と実生活の両方の経験をもとに執筆しています。
