先日実家に顔を出したら、お父さんが椅子の上に乗って、リビングの高い窓のサッシを一人で拭いていて、思わず「危ないからやめて!」と声が出てしまった、という経験はないでしょうか。年末が近づくと「今年もお世話になった家をきれいにしたい」という気持ちから、高齢の親が一人で大掃除に挑み、無理をしてしまうことがよくあります。
今日は、年末の大掃除で高齢の親に起こりやすい転倒やぎっくり腰といった事故と、家族が無理なく一緒に進めるための具体的な工夫についてお伝えします。
年末の大掃除で高齢の親に起こりやすい事故
なぜ年末に事故が増えるのか
消費者庁の事故情報でも、高齢者の家庭内事故は「踏み台や椅子からの転落」「高い場所での作業中の転倒」が毎年目立って報告されています。年末は「年神様を迎える前にきれいにしたい」という意識から、普段は手を出さない高い場所の掃除に挑戦する人が増える時期でもあります。
さらに12月は気温が下がり、体が思うように動かなくなっている時期でもあります。本人は「若い頃と同じように動ける」と思っていても、筋力やバランス感覚は少しずつ変化しているため、思わぬところで足を滑らせてしまうのです。
高所での転倒・ぎっくり腰が目立つ理由
窓の上部や照明、カーテンレールなど、普段は手の届かない場所を掃除しようとすると、不安定な椅子や踏み台に乗ることになります。手を伸ばして体のバランスを崩したところで足元がぐらつき、転倒につながるケースが少なくありません。
また、低い場所の拭き掃除や荷物の整理でも、前かがみの姿勢を長時間続けることで腰に大きな負担がかかります。「よし、今日は一気にやってしまおう」と気合を入れすぎた結果、翌日に動けないほどの腰痛に見舞われる方も毎年多く見られます。
換気扇や照明など見落としやすい危険個所
キッチンの換気扇や和室の照明カバーは、油汚れやホコリが目立つため「今年は徹底的に」と意気込んで手を出しやすい場所です。しかし脚立の上で片手に雑巾、片手で換気扇を押さえるような姿勢は、ただでさえバランスを取りにくく、ほんの少し手を伸ばしただけで足元が崩れることがあります。
年末は餅つき機や来客用の座布団など、普段しまい込んでいる重い荷物を押し入れから出し入れする機会も増えます。こうした「掃除以外の年末作業」も、ぎっくり腰のきっかけになりやすい点は見落とされがちです。
「まだできる」という思い込みに注意
電話で「大掃除はどう?」と聞くと、「全部終わったよ、大丈夫」と元気に答える親も多いものです。しかし実際に会ってみると、腰をかばいながら歩いていたり、体のあちこちに湿布を貼っていたりすることも少なくありません。
本人が「できる」と思っていることと、実際の体力には差があることを、家族としてまず前提に置いておくことが大切です。
今日からできる対策
高所作業は思い切って手放す
一番確実な対策は、高い場所の掃除を「親がやらないこと」に決めてしまうことです。帰省したときに家族がまとめて済ませる、あるいは地域のシルバー人材センターや掃除代行サービスに依頼するなど、本人が椅子や踏み台に乗らなくて済む仕組みを作っておきましょう。
「せっかく来たんだから、窓は私がやるよ。お父さんは下から指示してくれたら助かる」というように、役割を変えて渡すのも一つの方法です。本人の「きれいにしたい」という気持ちを尊重しながら、作業そのものは安全な人に任せる形にできると、無理に止めるよりも受け入れてもらいやすくなります。
道具を変えて体への負担を減らす
椅子に乗らなくても窓や照明の掃除ができる、柄が伸びるタイプのワイパーやモップに切り替えるだけで、高所作業そのものを減らせます。床に落ちているものを拾う、低い家具の裏を掃除するといった前かがみの作業が多い日は、長柄のちりとりやハンディクリーナーを使うことで腰への負担も軽くなります。
なお、日常使いできるアイテムとしてこちらも参考にしてみてください。
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家族で役割分担してスケジュールを立てる
大掃除を「1日で全部終わらせる」と考えると、どうしても無理が生じます。「今日は窓、明日は収納」というように数日に分けて進める、あるいは部屋ごとに分担を決めておくと、本人も家族も余裕を持って取り組めます。
「お母さん、腰は大丈夫?今日はここまでにして、残りは今度帰ってきたときに一緒にやろう」と声をかけて、無理に終わらせようとする気持ちにブレーキをかけてあげることも、家族だからこそできる役割です。
安全に進めるためのチェックリスト
帰省前や当日の声かけの参考に、次のポイントを確認してみてください。
- 椅子や台を踏み台代わりに使っていないか
- 一人で高い場所の作業をしていないか
- 重い荷物を一度に運ぼうとしていないか
- 休憩をとらずに何時間も作業を続けていないか
- 床が水で滑りやすくなっていないか
それでも腰に負担がかかる作業を避けられないときは、腰を支えるサポーターを使うのも有効な工夫です。
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家事の前に着けておくと腰への負担を和らげやすい
注意点・よくある失敗
「踏み台なら椅子より安全」と思われがちですが、使い慣れていない踏み台をあわてて使うと、むしろ転倒のリスクが高まります。踏み台の選び方については「衣替えで増える親の踏み台事故|安全な脚立・踏み台の選び方」でも詳しく紹介しているので、どうしても踏み台が必要な場合は参考にしてください。
また、大掃除のタイミングで「いらない物も一緒に整理しよう」と張り切りすぎるのも注意が必要です。長年のものを一度に整理しようとすると、重い荷物を運ぶ場面も増えます。年末だけで終わらせず、「実家の生前整理|親も家族も無理なく進めるコツ」で紹介しているように、時間をかけて少しずつ進める視点も取り入れてみてください。
重い物を持ち上げる動作で腰を痛めやすい点は、介助の場面とも共通しています。「介護の移乗介助|腰を痛めない移乗グッズの選び方」では、腰への負担を減らす体の使い方も紹介しているので、大掃除の荷物運びにも役立つはずです。
介護の現場で長年働いてきた中で感じるのは、「ちょっと腰が痛いだけ」と本人が軽く考えているうちに、動けなくなるまで我慢してしまう方が案外多いということです。数日経っても痛みが引かない、しびれを伴う、強い痛みで動けないといった場合は、無理に様子を見ず、早めにかかりつけ医に相談することをおすすめします。本記事はあくまで一般的な予防の工夫を紹介するものであり、個別の症状の診断や治療の代わりになるものではありません。
「きれいな新年」より「無事な新年」を
年末の大掃除は、一年を気持ちよく締めくくるための大切な習慣です。ただ、それが原因でけがをしてしまえば、新年を迎える気持ちも台無しになってしまいます。
今年は「全部きれいにする」ことよりも、「親が無理をしない年末」を目標にしてみませんか。帰省の予定があるなら、まずは電話で「高いところは私がやるから、そこだけ待っててね」と一言伝えておくだけでも、親の無茶な行動を減らせるはずです。
この記事の執筆者について
介護福祉の現場で22年以上、訪問介護や高齢者施設での勤務、自宅での家族介護を経験してきました。現在も遠方に暮らす高齢の家族がおり、「離れて暮らす家族を見守る」ことの難しさを実感者として日々感じています。本記事も、そうした現場と実生活の両方の経験をもとに執筆しています。
