夜中、階下からドサッという鈍い音が聞こえて飛び起きると、トイレの前でお父さんが尻もちをついていた——そんな一報を受けて、あわてて実家に駆けつけた経験はないでしょうか。
9月に入り、朝晩はだいぶ涼しくなってきました。日中との気温差で眠りが浅くなり、夜中に何度も目が覚めやすくなるのはちょうどこの時期です。「最近、夜中に何度もトイレに起きているみたい」という相談は、季節の変わり目に特に増える悩みのひとつです。
この記事では、なぜこの時期に夜間のトイレでの転倒が増えやすいのか、その理由を整理したうえで、今日からご家庭でできる具体的な対策を、ポータブルトイレや便利グッズの選び方とあわせてご紹介します。

秋口に転倒のリスクが高まる理由
加齢による夜間頻尿と、季節の変わり目の冷え
年齢を重ねると、腎機能の変化やホルモンバランスの影響で、夜間に何度もトイレに起きる「夜間頻尿」が増える傾向にあります。国立長寿医療研究センターによると、夜間頻尿は高齢者に非常に多くみられる症状のひとつとされています。加えて、朝晩に冷え込む季節の変わり目は体が冷えやすく、それだけでトイレが近くなる方も少なくありません。
一晩に何度もベッドとトイレを往復することになれば、それだけ転倒の機会も増えてしまいます。日中にこまめな水分補給を心がけることは今の時期も引き続き大切ですが、経口補水液の選び方と飲ませ方でも触れた通り、飲むタイミングを工夫すると夜間のトイレ回数を減らせることがあります。就寝の1〜2時間前は控えめにし、日中にしっかり摂るのがポイントです。
私自身、遠方に暮らす親戚の家に泊まったとき、夜中に何度もトイレへ向かう足音で目が覚めたことがあります。翌朝「よく眠れた?」と聞くと「トイレで何度も起きちゃって、実はあまり眠れていないのよ」と苦笑いされました。当たり前だと思って見過ごしがちなことが、本人にとっては思いのほか大きな負担になっているものです。
暗がりでの寝ぼけ・視力低下という見落としがちなリスク
夜中に目覚めた直後は、頭がまだしっかり覚醒しておらず、いわゆる「寝ぼけ」の状態になりがちです。加えて、暗い部屋の中では若い頃よりも視力の低下がはっきり影響し、家具の角や敷居の段差に気づきにくくなります。消費者庁の報告でも、高齢者の家庭内事故は夜間や早朝の時間帯に多く発生していることが指摘されています。
普段は慣れているはずの自宅の廊下でも、真っ暗な中では思わぬところでつまずいてしまうものです。「うちは大丈夫」と思っていても、暗闇と寝ぼけが重なると誰にでも起こりうることだと考えておきましょう。実際に、夜間のトイレでの転倒がきっかけで骨折し、そのまま入院・介護が必要になったというケースも珍しくありません。
今日から始められる備え
寝室のそばに置くポータブルトイレという選択肢
トイレまでの距離そのものを短くしてしまうのが、最もシンプルで効果的な対策です。寝室のすぐそばにポータブルトイレを置いておけば、暗い廊下や階段を歩く回数そのものを減らせます。
「ポータブルトイレはまだ早いのでは」と感じるご家族も多いのですが、常に使うためではなく、体調が悪い夜や気温差で体が冷える時期だけ使う、という考え方でも十分です。使用後は消臭剤つきのものを選ぶと、においが気になりにくくなります。座面に手すりが付いているタイプなら、立ち座りの負担も軽くなります。
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寝室のそばに置ける介護用トイレです
ポータブルトイレを選ぶ際は、置き場所のスペースに合うサイズかどうか、立ち上がりやすい高さかどうか、そしてお手入れのしやすさをチェックしておくと、長く安心して使い続けられます。
足元の明かりと吸収ケア用品を見直す
廊下やトイレまでの動線に、人感センサー付きのライトを設置しておくと、電気のスイッチを探す手間がなくなり、暗闇での移動が格段に安全になります。まぶしすぎない足元灯タイプを選ぶと、目が覚めすぎず再び眠りにつきやすいというメリットもあります。足元の照明については、秋の夜長に増える転倒|足元センサーライトの選び方でも選び方を詳しく紹介しているので、あわせてご覧ください。
また、尿とりパッドを併用すれば、万が一トイレに間に合わなかった場合でも下着や寝具を守ることができ、本人の「失敗したらどうしよう」という不安をやわらげることにもつながります。夜間だけ使う吸収パッドとしてこちらも参考にしてみてください。
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夜間の一枚でしっかり吸収してくれます
声かけで気づく小さな変化
「夜、トイレに行くとき危なくない?」と直接聞くと、本人が身構えてしまうこともあります。「私も最近夜中に何度も起きちゃって。お母さんはどう?」というように、自分の話も交えながら聞いてみると、素直に答えてもらいやすくなります。
履物の状態も、さりげない一言から確認できます。「そのスリッパ、そろそろ底がすり減ってない?」と聞いてみると、本人が気づいていなかった滑りやすさに気づくきっかけになることもあります。
- 寝室からトイレまでの動線に物を置きっぱなしにしていないか確認する
- スリッパや靴下の底が滑りやすくなっていないか確認する(滑り止め靴下・スリッパの選び方も参考に)
- 「夜中に起きたら電気をつけてから歩いてね」と具体的に伝える

対策を進めるときに気をつけたいこと
ポータブルトイレを用意しても、本人が「まだそこまでしなくても」と使うことを嫌がるケースは少なくありません。無理強いせず、「念のため」「体調が悪い日だけ」といった形で、あくまで選択肢のひとつとして置いておくことが対策を続けるコツです。
トイレ自体の環境を見直すことも忘れないようにしましょう。浴室・キッチンでの転倒防止対策や室内手すりの取り付けもあわせて行うことで、夜間だけでなく日中の移動もより安全になります。介護保険の住宅改修費補助が使える場合もあるため、気になる方はケアマネジャーに相談してみてください。
もうひとつ注意したいのが、夜間頻尿が単なる加齢や冷えによるものではなく、糖尿病や心臓・腎臓の病気、前立腺の病気などが背景にある場合もあるという点です。急に回数が増えた、痛みや血尿などの症状がある場合は、自己判断せず必ずかかりつけ医にご相談ください。この記事で紹介している内容はあくまで一般的な情報であり、個別の診断や治療に代わるものではありません。
対策を始めるときは、一度にすべてを揃えようとせず、まずは足元の照明や動線の片付けなど、費用をかけずにできることから着手するのがおすすめです。
- 寝室からトイレまでの通路に段差やコード類がないか確認する
- 夜間だけでも使えるように、ポータブルトイレの設置場所を事前に相談しておく
- 本人が使いたがらない場合は理由を聞き、無理強いしない
- 症状が急に変化したときは早めにかかりつけ医や地域包括支援センターへ相談する

まとめ
夜間のトイレ移動での転倒は、加齢による夜間頻尿、季節の変わり目の冷え、暗さや寝ぼけといった複数の要因が重なって起こります。ポータブルトイレや尿とりパッド、足元センサーライトなど、今日から取り入れられる工夫はたくさんあります。
今夜、実家に電話をかけて「廊下の足元、暗くない?」とひと声かけてみてください。ちょっとした確認が、次に起こるかもしれないヒヤリを一つ防ぐことにつながります。
この記事の執筆者について
介護福祉の現場で22年以上、訪問介護や高齢者施設での勤務、自宅での家族介護を経験してきました。現在も遠方に暮らす高齢の家族がおり、「離れて暮らす家族を見守る」ことの難しさを実感者として日々感じています。本記事も、そうした現場と実生活の両方の経験をもとに執筆しています。
