先日、実家に電話をかけたら、母の声がいつもより小さく沈んでいて驚いたという方もいらっしゃるのではないでしょうか。「どうしたの」と聞いても「別に、ちょっと疲れただけ」と返ってくるだけ。夏の間は庭いじりや近所の集まりに出かけていたのに、日が落ちるのが早くなった途端、家にこもりがちになる――そんな変化は、実は多くの高齢者に共通して見られるものです。
本記事では、秋から冬にかけて親の気分が沈みやすくなる理由と、家族が今日から無理なくできる工夫、そして「様子がおかしい」と感じたときの相談先について、現場での経験も交えてお伝えします。
秋冬に親の気分が沈みやすくなるのはなぜか
夏が終わり日照時間が短くなると、気分の落ち込みやだるさを感じやすくなる人が一定数いることは、医学的にも知られている現象です。特に高齢者は体内時計の調整力が若い頃より弱まりやすく、季節の変化の影響を受けやすいと言われています。
日照時間と体内時計の関係
朝の光を浴びることは、体内時計を整え、気分や睡眠のリズムに関わるホルモンの分泌を助けるとされています。日の出が遅くなる秋冬は、起床時にまだ外が暗く、朝日を浴びる機会そのものが減ってしまいがちです。結果として、生活リズムが乱れ、昼間もぼんやりしたり、夜になってもなかなか寝付けなかったりすることがあります。こうした睡眠の乱れについては、秋に増える親の不眠|安眠グッズと今日からの工夫でも具体的な対策を紹介していますので、併せて参考にしてみてください。
外出機会の減少と一人暮らしの影響
気温が下がり日没も早まると、「暗くなる前に帰らないと」という心理的なハードルから、外出そのものを控える親御さんは少なくありません。特に一人暮らしの場合、誰かと顔を合わせて話す機会そのものが減り、気分の落ち込みに拍車をかけてしまうこともあります。買い物や通院のついでに誰かと立ち話をする、といった些細な交流も、日が短くなると自然と減ってしまうものです。
季節性の気分変化は珍しいことではない
秋から冬にかけて気分が沈みやすくなる傾向は、特別なことではなく、季節の変化に伴う自然な反応として多くの人に見られます。毎年同じ時期になると似たような変化が出る場合、「今年もその時期が来た」と家族があらかじめ心づもりをしておくだけでも、気づきが早まり対応がしやすくなります。
「年のせい」で見過ごされやすい
「最近なんだか元気がない」という変化は、加齢による自然な変化だろうと家族も本人も見過ごしてしまいがちです。現場で高齢の利用者さんを担当していた頃、夏は毎日庭に出ていた方が、秋になった途端にカーテンを閉め切って一日中部屋にこもるようになり、ご家族が「季節のせいだけでは片付けられない」と気づいて相談に来られたケースを何度か見てきました。季節の変化による気分の浮き沈みは自然なことですが、長く続く場合は見過ごさない視点を持つことが大切です。
今日からできる対策
気分の落ち込みそのものを薬やサプリメントで一気に解消しようとするのではなく、生活の中に光を取り入れる小さな工夫を積み重ねることが基本になります。
朝の光を浴びる習慣をつくる
カーテンを開けて朝日を部屋に取り込む、朝食は窓際で摂るなど、意識して光を浴びる時間をつくることが対策の第一歩です。曇りや雨の日が続くときや、冬場で日の出が遅い時期は、どうしても自然光だけでは足りない日もあります。そうした日の補助として、光目覚まし時計や光療法ライトを取り入れている家庭もあります。あくまで生活リズムを整えるための一つの工夫であり、気分の落ち込みを確実に解消するものではない点は理解しておきましょう。
- 朝起きたらまずカーテンを開ける
- 朝食や新聞を読む場所を窓際に変えてみる
- 天気の悪い日は照明を少し明るめにする
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朝の光を取り入れる生活リズムづくりに
散歩や外出のきっかけをつくる
「散歩しておいで」と言うだけではなかなか腰が上がらないものです。「お昼にちょっと郵便局まで一緒に歩かない?」「公園の紅葉、もう見頃かもね」など、具体的な目的や誘い文句を添えると、外に出る後押しになります。趣味や人との関わりを通じて外出のきっかけを増やす方法については、一人暮らしの高齢者におすすめの趣味と選び方でも紹介していますので参考にしてみてください。
家族の声かけと連絡の工夫
遠方に暮らしている場合、電話の声の張りやテンポの変化に気づきやすいものです。「最近どう?」という漠然とした聞き方よりも、「今日はお天気よかった? 外出た?」のように具体的に聞くと、本人も答えやすくなります。スマホ操作が苦手な親とも気軽に顔を見て話せる工夫については、スマホが苦手な高齢の親と繋がる家族の連絡術にまとめてありますので、日々の連絡に取り入れてみてください。筆者自身も、遠方に住む家族の声のトーンが秋になると落ち着く日が増えることに気づき、電話の頻度を少し増やすようにしています。
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注意したいサインと相談先
季節による一時的な気分の浮き沈みと、専門家に相談したほうがよい状態との境目は、家族だけで判断するのが難しいところです。症状だけで特定の病名を決めつけることは避けつつも、次のような変化が2週間以上続く場合は、一人で抱え込まずに相談する目安にしてください。
- 以前好きだったことにまったく関心を示さなくなった
- 食欲や体重の変化が明らかに大きい
- 「消えてしまいたい」など気になる発言がある
- 身だしなみや身の回りのことへの意欲が急に落ちた
こうしたサインに気づいたときは、まずかかりつけ医に相談するのが安心です。かかりつけ医がいない場合や、どこに相談すればよいか分からない場合は、お住まいの地域包括支援センターに連絡すれば、適切な医療機関や専門職につないでもらえます。国立長寿医療研究センターなども、高齢者の心身の健康に関する情報を発信していますので、気になる方は参考にしてみてください。本記事の内容はあくまで一般的な情報提供であり、個別の診断や治療に代わるものではない点もご理解ください。
現場で感じるのは、「様子を見よう」と先延ばしにするうちに半年、一年と過ぎてしまうケースが少なくないということです。早めに専門職へつないだご家族ほど、本人も家族も気持ちが楽になっていく印象があります。一人で判断せず、きょうだいや他の家族とも「最近どう見える?」と情報を共有し合うことも、変化に気づくきっかけになります。
毎年繰り返す季節だからこそ、早めの備えを
秋冬の気分の落ち込みは、多くの場合一時的なもので、朝の光を意識する、外出のきっかけをつくる、家族がこまめに声をかけるといった小さな積み重ねで和らげられます。ただし「今年だけ」ではなく、毎年同じ時期に繰り返す傾向がある場合は、来年に向けて家族の中で「秋になったらこうしよう」という備えを話し合っておくのもよいでしょう。日が短くなる時期は、どの家庭にとっても他人事ではありません。今日の電話や帰省のときに、まずは「最近、日が短くなってきたけど元気にしてる?」のひとことから始めてみませんか。
この記事の執筆者について
介護福祉の現場で22年以上、訪問介護や高齢者施設での勤務、自宅での家族介護を経験してきました。現在も遠方に暮らす高齢の家族がおり、「離れて暮らす家族を見守る」ことの難しさを実感者として日々感じています。本記事も、そうした現場と実生活の両方の経験をもとに執筆しています。
