親と迎えるお正月|餅の窒息事故を防ぐ食べ方の工夫

お正月に実家に帰ると、祖父母や親がお雑煮のお餅を頬張る姿に、ほっとひと安心する方も多いのではないでしょうか。ところが消防庁の発表によると、餅による窒息事故は毎年1月に集中して起こり、被害者の多くが高齢者であることが知られています。「今年も変わらず元気に迎えられた」と安心する一方で、毎年のように報道される窒息のニュースにドキッとした経験がある方もいるはずです。この記事では、なぜ高齢者が餅を詰まらせやすいのか、そして今日から家庭でできる安全な食べ方の工夫を、具体的な声かけ例とともにご紹介します。

お正月に食べるお雑煮とお餅
お正月に欠かせないお雑煮

実際に、年末年始の時期だけ急に餅をのどに詰まらせる高齢者が増えるのには理由があります。普段の食事ではお粥やパンなど飲み込みやすいものが中心でも、お正月だけは「せっかくのお祝いだから」とふだんより大きめの餅を頑張って食べてしまう方が少なくないのです。「お父さんも今年くらいは好きなだけ食べさせてあげたい」という家族の優しさが、思わぬ事故につながってしまうこともあります。

年末年始に高齢者の窒息事故が増える理由

加齢による嚥下(えんげ)機能の低下

年齢を重ねると、食べ物を飲み込む力である「嚥下機能」は少しずつ低下していきます。噛む力が弱くなったり唾液の量が減ったりすることで、餅のような粘り気のある食品を十分にすりつぶせないまま飲み込んでしまうことがあるのです。国立長寿医療研究センターの資料でも、加齢に伴う嚥下機能の低下が高齢者の誤嚥・窒息リスクと密接に関わっていることが指摘されています。「最近お父さんの食べるペースが遅くなった」「むせることが増えた」といった変化に気づいたら、嚥下機能の低下が進んでいる可能性があります。日頃からのサインに気づくことが、お正月の事故を防ぐ第一歩になります。詳しいサインについては高齢者のむせ・誤嚥のサインと対策もあわせて参考にしてみてください。

入れ歯や歯の状態も影響する

餅をしっかり噛みきれない背景には、入れ歯の不具合や歯の本数の減少が関係していることもあります。噛む力が弱いまま大きな餅を口に入れると、十分に細かくならないうちに飲み込んでしまい、のどに詰まりやすくなります。「入れ歯が合わなくて噛みにくそう」と感じたら、お正月前に歯科でチェックしてもらうのも一つの方法です。口腔ケアの工夫は親の入れ歯・口腔ケア|誤嚥性肺炎を防ぐ家族の工夫でも詳しく紹介しています。

餅そのものの粘着性と、多人数で集まる場の油断

餅は温度が下がると硬くなり、逆に温かいうちは強い粘着性を持つため、のどに張り付くように詰まりやすい食品です。お正月は親戚が集まり、会話が盛り上がる中で食事が進むため、「誰かが見ているはず」という油断が生まれやすい場面でもあります。久しぶりに顔を合わせた親戚との会話に気を取られ、食卓の様子から視線が離れてしまうのは、どの家庭でも起こり得ることです。一人ひとりが「自分が見ていなくても大丈夫」と思い込まず、家族全体で注意を向けることが大切です。

今日からできる安全な食べ方の工夫

一口サイズに小さく切る

餅を食べる前に、あらかじめ一口で食べられる小さなサイズに切っておくことは、最も手軽で効果的な対策の一つです。「お父さん、今年は小さく切ってから食べようね」と声をかけるだけで、家族の意識も変わります。最近は、餅を均等な小さいサイズに切れる専用のカッターも市販されており、毎年同じ失敗を繰り返さないための備えとしても活用できます。

家族に支えられながら食事をする高齢者の手
家族で見守りながらの食事

なお、日常使いできるアイテムとしてこちらも参考にしてみてください。

💡 こちらのアイテムも参考になります

モチワリ 切り餅カッター餅を一口サイズに切れる専用カッター
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切り餅を安全な小ささに均等カット

切ったあとは、断面が乾いて硬くならないうちに食べ切れる量だけを用意するのもポイントです。「一度にたくさん切って冷めてしまった」という状態は、むしろ硬くなって危険度が上がることもあるため注意しましょう。お正月の食卓で、家族みんなが意識しておきたいポイントを整理しておきます。

  • 餅は一口で食べられる小ささに切ってから出す
  • 汁物やお茶など水分と一緒にゆっくり食べてもらう
  • 食事中はテレビやスマホから目を離し、様子を見る
  • 硬くなった餅は無理に食べさせず、柔らかく調理し直す

こうした工夫は特別な準備を必要とせず、今日の食事からすぐに取り入れられるものばかりです。毎年同じことを繰り返すお正月だからこそ、一度家族の中でルール化してしまうと、翌年以降も自然と実践しやすくなります。

よく噛んでゆっくり食べる環境づくり

急いで食べる必要のない、ゆったりとした時間を用意することも重要です。テレビを見ながらの「ながら食べ」は噛む回数が減りやすいため、お正月くらいは食事に集中できる雰囲気を作ってみましょう。「ゆっくりでいいから、しっかり噛んでね」という何気ない一言が、事故を防ぐきっかけになります。

家族が見守りながら、一人にしない

餅を食べる場面では、できるだけ誰かが近くにいる状況を作ることが望まれます。特に一人暮らしの高齢の親が一人で餅を食べる状況は避け、帰省中はできるだけ食事の時間を家族と合わせるようにしましょう。心配な場合は、飲み込みやすさに配慮してとろみをつけた飲み物を用意するのも一つの方法です。具体的な選び方は高齢の親のむせ込みを防ぐ|とろみ剤の選び方と使い方で紹介しています。

注意点・よくある失敗

体調に不安を感じる高齢の男性
小さな変化にも目を向けて

「毎年大丈夫だったから」という思い込み

「今まで一度も詰まらせたことがないから今年も大丈夫」という思い込みは、最も危険な落とし穴です。嚥下機能は年々変化するため、去年までの「普通」が今年は通用しないこともあります。介護の現場で見てきた中でも、「今まで平気だったから」と話す家族ほど、翌年に思わぬ事故に見舞われるケースを目にしてきました。毎年のお正月のたびに、改めて親の食べる様子を観察し直すことを習慣にしましょう。

「一口サイズ」のつもりが大きすぎることもある

家庭によって「一口サイズ」の感覚は意外とばらつきがあります。普段から大きめに切り分けている家庭では、本人にとっては「いつもの大きさ」でも、嚥下機能が落ちている年には大きすぎる場合があります。切った餅を実際に親の口の大きさと見比べながら、「これくらいで無理なく食べられそう?」と確認する一手間が、安心につながります。

もし詰まらせてしまったら

万が一、餅をのどに詰まらせて様子がおかしいと感じたら、ためらわずに119番へ通報してください。消防署では地域の救命講習で、窒息時の応急手当の方法を学べる機会を設けています。帰省前に家族で一度、応急手当の基本を確認しておくと、いざという時にも落ち着いて対応しやすくなります。なお、持病や嚥下機能について気になる点がある場合は、普段からかかりつけ医や歯科医に相談しておくことも大切です。本記事は一般的な情報提供であり、個別の症状の診断や治療の代わりになるものではありません。

笑顔で迎える新年のために、今日からできること

今年のお正月は、「小さく切る」「ゆっくり噛む」「一人にしない」という3つの工夫を、ぜひ家族で話し合ってみてください。些細な声かけの積み重ねが、大切な家族の笑顔を守る一番の近道です。帰省の予定を立てるときに、ほんの数分でもこの話題を家族のLINEグループで共有しておくだけでも、お正月の安心感は大きく変わってくるはずです。

毎年のことだからと見過ごしてしまいがちな餅の窒息事故ですが、ほんの少しの準備と声かけで防げることがたくさんあります。帰省の荷物を整える際には、ぜひ今日ご紹介した工夫も一緒に持ち帰ってみてください。


この記事の執筆者について

介護福祉の現場で22年以上、訪問介護や高齢者施設での勤務、自宅での家族介護を経験してきました。現在も遠方に暮らす高齢の家族がおり、「離れて暮らす家族を見守る」ことの難しさを実感者として日々感じています。本記事も、そうした現場と実生活の両方の経験をもとに執筆しています。

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