仕事と介護の両立|介護休業の基本と職場への伝え方

連休に実家へ帰ったら、母の足取りが以前より少し頼りなく見えて、胸がざわついた。休み明けの朝、会議の最中にスマホが震え、画面には実家の番号――。そんな経験をされた方は、いま職場でも家でも気を張り続けているのではないでしょうか。

介護は突然始まるうえに、いつ終わるか分かりません。だからこそ「仕事を辞めるしかないのかな」と一人で思い詰めてしまう方が少なくありません。でも、辞める前に知っておいてほしい制度と準備があります。

この記事では、介護休業などの基本、職場への切り出し方、一人で背負わないための体制づくりを順番にお話しします。なお、制度の内容や対象条件は会社の規定や個々の状況で変わるため、一般的な情報提供としてお読みください。

オフィスの仕事机とパソコン
仕事を続けるための備え

「休まなきゃ」と思ったときに知っておきたい3つの制度

厚生労働省が案内している育児・介護休業法には、働きながら介護を続けるための仕組みがいくつか用意されています。まず全体像として、代表的な3つを押さえておきましょう。

介護休業|93日は「介護する期間」ではなく「整える期間」

介護休業は、対象の家族1人につき通算93日まで、最大3回に分けて取れる制度です。ここで大切なのは、この93日を「自分ひとりで介護をやり切る期間」と考えないことです。

現場で長く働いてきて感じるのは、休業を全部つきっきりの介護に使ってしまい、復帰後に何も変わらないまま疲れ切ってしまう方が多いということです。本来は、介護保険の申請、ケアマネジャーとの相談、サービスの手配など、続けられる体制をつくるための期間として使うほうが、結果的に長く働き続けられます。

要介護認定を受けていなくても、状態によっては対象になることがあります。ただし、勤続年数や雇用形態によって対象外になるケースもあるため、まずは会社の窓口で確認してください。

介護休暇|通院の付き添いや手続きの日に

介護休暇は、対象家族が1人なら年5日、2人以上なら年10日まで取れる制度で、時間単位での取得もできます。「半日だけ病院に付き添いたい」「役所とケアマネさんとの面談に1時間だけ抜けたい」といった場面にちょうど合います。

介護休業のように長く休むほどではないけれど、平日の用事が積み重なって有給休暇が足りなくなる。そんなときの受け皿になってくれるのが、この介護休暇です。

介護休業給付金|休業中の収入の目安

一定の条件を満たすと、雇用保険から介護休業給付金が支給されます。目安は休業前の賃金のおよそ67%ですが、支給の条件や手続きは人によって異なります。

申請の窓口はハローワークで、会社を通して手続きするのが一般的です。休業に入ってから慌てないよう、取得を考え始めた段階で、会社の担当者に確認しておくと安心です。

2025年4月からは、家族の介護に直面したことを会社に伝えた従業員に対して、会社が制度を個別に説明し、利用の意向を確認する仕組みも始まっています。「言い出しにくい」と感じていても、伝えたときに会社が動く流れは以前より整ってきています。

職場に切り出す前に、まず紙一枚に整理する

いきなり「介護で休みたいです」と伝えても、上司も何を判断すればよいのか分からず、話が進みにくくなります。私自身、遠方に暮らす家族がいるので、平日の昼間に実家の番号が表示されると今でもドキッとします。あの焦っている状態で説明しようとしても、うまく言葉にならないものです。

だからこそ、伝える前に状況を短く書き出しておくと、落ち着いて話ができます。

整理しておきたい4つのポイント

次の内容を、メモ一枚にまとめておくのがおすすめです。完璧でなくて構いません。

  • 親の現在の状況(通院の頻度、ひとりで難しくなってきた場面など)
  • 自分が対応する必要がありそうな時期と、頻度の見込み
  • すでに動いていること(地域包括支援センターへの相談、介護保険の申請など)
  • 会社に相談したいこと(休暇、時差出勤、短時間勤務、在宅勤務など)

大事なのは「休みたい」ではなく「仕事を続けるために相談したい」という姿勢で臨むことです。会社の制度によっては、短時間勤務や時差出勤、在宅勤務といった選択肢が用意されている場合もあります。

上司への伝え方の一例

実際の場面では、次のような切り出し方が使いやすいと思います。

「実は、母の介護が必要になりそうで、ご相談があります。仕事は続けたいと考えているので、使える制度や働き方の調整について教えていただけないでしょうか。まだ状況が固まっていない部分もありますが、今わかっている範囲でお伝えします。」

このように、結論(続けたい)を先に伝え、状況が変わる可能性があることも添えておくと、相手も受け止めやすくなります。もし直属の上司に話しにくければ、人事や総務の担当者に先に相談する方法もあります。

なお、親の体調の変化や受診の要否については、私たち家族が判断できる範囲を超えることがあります。気になる変化があれば、かかりつけ医に相談したうえで、職場にも伝えるべき内容を整理していくと、話が具体的になります。

一人で背負わない体制を、休む前につくっておく

休業や休暇は、それだけでは介護の負担を減らしてくれません。制度で手に入れた時間を使って、介護を「分け合える形」にしておくことが、両立の土台になります。

最初の相談先は地域包括支援センター

親の住む地域の地域包括支援センターは、介護に関する無料の総合相談窓口です。「まだ介護というほどではないかも」という段階でも相談できて、介護保険の申請の流れや、利用できるサービスについて教えてもらえます。

申請から認定までの手順は、介護保険の申請方法|要介護認定までの流れと準備で詳しくまとめています。遠くに住む親の場合は、遠距離介護の始め方もあわせて参考にしてみてください。

きょうだいと親、それぞれと役割を決める

きょうだいがいる場合は、「誰が何をやるか」を早めに言葉にして共有しておきましょう。お金を出す、手続きを担当する、週末に顔を出す、電話で話し相手になる。介護は同じ形で関わらなくても、役割を分けるだけで負担感が違ってきます。

親御さん本人とも、「私が仕事で来られない日は、ヘルパーさんやデイサービスに助けてもらう日を決めておかない?」と、選択肢として提案してみてください。「迷惑をかけたくない」と遠慮する親には、「私が長く仕事を続けるための準備でもあるんだ」と伝えると、受け入れてもらいやすくなります。

デイサービスに難色を示されたときの進め方は、親がデイサービスを嫌がる時|見学・体験の進め方と持ち物が役に立つはずです。

予定と書類を「見える場所」に集める

サービスの利用日、通院日、家族が訪ねる日。これらがバラバラの場所に書かれていると、連絡のたびに確認が必要になり、仕事中の負担が増えてしまいます。実家の目につく場所に月間の予定を貼っておけば、ヘルパーさんやきょうだいとも共有しやすくなります。

同じように、診察券や保険証、お薬手帳も一か所にまとめておくと、急な通院の付き添いを誰かに代わってもらうときに助かります。

家族と過ごす高齢の女性
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訪問や通院の予定を親の家で共有

通院関連の書類は、ケースにまとめておくと持ち出しがスムーズです。

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診察券や保険証をまとめて持ち歩ける

制度の全体像を本で確認したい場合は、Amazonで探してみるのもひとつの方法です。

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よくある失敗|頑張りすぎて共倒れにならないために

制度を知っていても、実際にはつまずきやすいポイントがあります。現場でご家族を見てきた経験から、特に多いものを挙げておきます。

辞める決断を急いでしまう

介護が始まって数か月、睡眠不足と不安が重なると、「仕事を辞めれば全部解決する」と思えてくるものです。けれど退職すると、収入が減るだけでなく、介護が長引いたときに再就職が難しくなる場合もあります。

離職を考える前に、地域包括支援センターとケアマネジャー、会社の担当窓口の3か所には、必ず一度は相談してみてください。制度の詳細や個別の判断については、会社の窓口やハローワーク、社会保険労務士などの専門家にご確認いただくと確実です。

手続きを直前まで放置する

介護休業や給付金には、申し出の期限や必要書類があります。「休みたい日の直前に慌てて申請」となると、間に合わないこともあります。

親の様子が気になり始めた時点で、会社の制度を一度確認しておくだけで、いざというときの余裕がまったく違います。

親の気持ちを置き去りにしてしまう

段取りを急ぐあまり、親本人の「まだ自分でできる」という気持ちを聞かないまま話を進めてしまうと、あとでこじれてしまいます。サービスを使うことは「できなくなったから」ではなく「長く元気に暮らすため」と、言葉を選んで伝えてあげてください。

予定を書き込む手帳とカレンダー
予定を見える形で共有

今夜、この2つだけ

ここまで読んで、やることの多さに少し疲れてしまったかもしれません。全部を今日やる必要はありません。

まず、スマホに親の住む地域の地域包括支援センターの電話番号を登録してください。そして、次に会社のイントラネットか就業規則を開いて、「介護」の項目に目を通してみてください。

仕事も介護も、あなたが倒れてしまったら続けられません。休むことは、逃げではなく、両方を守るための選択です。まだ状況が固まっていなくても、早めに相談した人ほど、あとで選べる道が広がっています。


この記事の執筆者について

介護福祉の現場で22年以上、訪問介護や高齢者施設での勤務、自宅での家族介護を経験してきました。現在も遠方に暮らす高齢の家族がおり、「離れて暮らす家族を見守る」ことの難しさを実感者として日々感じています。本記事も、そうした現場と実生活の両方の経験をもとに執筆しています。

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