親の通院がつらいと感じたら|訪問診療・往診の始め方

先月、実家に帰ったとき、母がぽつりと「病院に行くのがだんだんしんどくなってきた」とこぼしました。杖をついて長い待合室の列に並び、会計を待ち、タクシーに揺られて帰ってくるだけで、その日一日は横になって過ごすことになる――そんな話を聞いて、胸が痛くなった方も多いのではないでしょうか。

実は、通院そのものが体力的な負担になっている高齢の親には、医師が自宅まで来てくれる「訪問診療」「往診」という選択肢があります。この記事では、訪問診療と往診の違い、始め方の流れ、家族が準備しておきたいことを分かりやすく解説します。

家族と話す高齢者
通院が負担に感じられたら

「訪問診療」と「往診」、実は違うものです

訪問診療は「計画的な定期訪問」

訪問診療とは、通院が困難な患者のために、医師があらかじめ立てた計画に沿って定期的に自宅や施設を訪れ、診察や健康管理を行う仕組みです。月に1〜2回程度、決まったペースで訪問してもらえるため、血圧や体調の変化を継続的に見てもらえる安心感があります。

往診は「急な体調不良への単発対応」

一方の往診は、「急に熱が出た」「いつもと様子が違う」といった突発的な体調不良の際に、そのつど連絡して来てもらう単発的な対応です。定期的な訪問診療とは異なり、必要なときにだけ利用する仕組みだと覚えておくと分かりやすいでしょう。

どんな人が対象になるか

歩行が不安定になった方、認知症で外出そのものが難しい方、寝たきりに近い状態の方など、通院すること自体が心身の負担になっている高齢者が主な対象です。「うちの親はまだそこまでではないから」と思っていても、真夏の炎天下や真冬の寒い日に無理をして通院を続けている場合は、一度検討してみる価値があります。一人暮らしを続ける中で通院が負担になってきた場合は、高齢の親が一人暮らしを続けるために家族ができることで紹介した工夫と合わせて検討してみてください。

訪問診療を始めるまでの流れ

まずはかかりつけ医か地域包括支援センターに相談

訪問診療は、今かかっている病院やクリニックがそのまま対応してくれるとは限りません。まずはかかりつけ医に「訪問診療はできますか」と尋ねるか、対応していない場合はお住まいの地域包括支援センターに相談すると、近隣で訪問診療に対応しているクリニックを紹介してもらえます。地域包括支援センターは、以前介護保険の申請で相談した窓口と同じ場所であることも多く、顔なじみのスタッフがいれば話がスムーズです。

訪問診療に対応するクリニックの探し方

最近では、インターネットで「(市区町村名)訪問診療」と検索するだけでも候補が見つかります。ただし対応できる疾患やエリアはクリニックによって異なるため、複数箇所に問い合わせて比較することをおすすめします。ケアマネジャーがいる場合は、ケアマネジャー経由で紹介してもらうとスムーズです。

費用の目安を知っておく

訪問診療には公的医療保険が適用され、自己負担割合は通常の通院と同じく年齢や所得に応じて1〜3割が目安です。これに加えて、訪問にかかる診療料などが上乗せされるため、通院より総額はやや高くなる傾向があります。とはいえ交通費やタクシー代、付き添いの負担がなくなることを考えると、トータルで見て負担が軽くなるご家庭も少なくありません。正確な金額は医療機関や自治体の窓口で確認しておくと安心です。

訪問診療では、普段の体調の変化をどれだけ医師に伝えられるかも大切なポイントになります。ご自宅で手軽に血中酸素の状態を確認できるアイテムを備えておくと、診察時の会話の材料にもなります。

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訪問診療で診察する医師
自宅で受けられる診療

スムーズに受けるために家族ができる準備

お薬手帳・診察券は一つにまとめておく

訪問診療でも、これまで飲んでいる薬の情報は欠かせません。お薬手帳や診察券、保険証をひとまとめにしておくと、初めて来てくれる医師にもスムーズに情報が伝わります。「これはどこにあるんだっけ」と探し回る場面を何度も見てきましたが、専用のケースを一つ用意しておくだけで当日のバタバタがぐっと減ります。

実際に声をかけるときは、「お母さん、先生が家まで来てくれる訪問診療っていう仕組みがあるんだって。一度話だけでも聞いてみない?」というように、まずは情報として提案してみると角が立ちません。本人が「まだ通院できるから大丈夫」と言う場合は無理強いせず、「もし通院がしんどくなったら、いつでも切り替えられるからね」と伝えておくだけでも安心材料になります。

家族の中で役割を分担しておく

訪問診療は自宅で受けられるとはいえ、初回は家族の誰かが立ち会えると安心です。きょうだいが複数いる場合は、「初回の説明を聞く人」「お薬手帳や記録をまとめる人」「クリニックとの連絡窓口になる人」を決めておくと、後から「聞いていなかった」という行き違いを防げます。遠方に住んでいて頻繁に帰省できない場合は、電話やビデオ通話で同席するという方法も選択肢の一つです。

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日々の体調変化を簡単に記録しておく

体温、血圧、食欲の有無、よく眠れているかどうかなど、ちょっとしたメモが診察の助けになります。「いつもと違う」という感覚を言葉にして伝えるのは、家族にとっても医師にとっても意外と難しいものです。日付と一言だけのメモでも、積み重ねることで体調の変化に早く気づけるようになります。毎日の血圧測定については、以前ご紹介した高齢の親の血圧計選びも参考にしてみてください。

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訪問診療にまつわる誤解と注意点

「訪問診療をお願いする=治療をあきらめる」ということでは決してありません。通院の負担を減らしながら、これまでと同じように必要な医療を受け続けるための選択肢の一つです。ただし、対応エリアや診療科は地域やクリニックによって差があるため、近所にあるはずと思い込まずに事前確認が必須です。

また、急変時にすべて往診で対応できるとは限りません。呼吸が苦しそう、意識がはっきりしないといった緊急性の高い症状が見られる場合は、往診の連絡を待たずに救急要請を優先すべき場面もあります。判断に迷ったときは、自己判断せずかかりつけ医や地域包括支援センター、救急相談の窓口などに相談することを心がけてください。本記事は一般的な情報提供であり、個別の症状への対応や診断の代わりになるものではありません。

血圧を測定する様子
日々の記録が診察に役立つ

「まだ元気だから」と先延ばしにせず、一度話してみませんか

通院がつらそうだと感じても、本人からはなかなか助けてほしいと言い出しにくいものです。まずは家族から「訪問診療っていう仕組みがあるみたいだよ」と話題にしてみることが、最初の一歩になります。今度実家に帰ったときにでも、さりげなく話を切り出してみてはいかがでしょうか。通院の負担が軽くなれば、本人の表情が明るくなるだけでなく、付き添う家族の時間にも余裕が生まれます。焦らず、家族のペースで検討していきましょう。


この記事の執筆者について

介護福祉の現場で22年以上、訪問介護や高齢者施設での勤務、自宅での家族介護を経験してきました。現在も遠方に暮らす高齢の家族がおり、「離れて暮らす家族を見守る」ことの難しさを実感者として日々感じています。本記事も、そうした現場と実生活の両方の経験をもとに執筆しています。

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