「お父さん、今の聞こえた?」と聞き返すと、「え?」ともう一度大きな声で言い直す——実家に帰るたびに、そんなやり取りが増えていませんか。数年前に補聴器を作ったはずなのに、最近は電池切れなのか調子が悪いのか、会話の途中で急に聞こえなくなることが増えた。そんな相談を受けることが少なくありません。補聴器は精密な機器であり、電池交換やお手入れを少し工夫するだけで、トラブルの多くは防ぐことができます。この記事では、聞こえなくなる主な原因と、今日から家族で取り組めるお手入れの習慣、そして注意しておきたいポイントを具体的に紹介します。
会話中に聞こえなくなる、そのとき何が起きているのか
補聴器が突然聞こえなくなったとき、多くのご家庭ではまず「壊れたのでは」と焦ってしまいます。しかし実際には、電池切れや湿気によるトラブルなど、日常のお手入れで防げる原因であることが少なくありません。以前ご紹介した集音器・補聴器の選び方と合わせて、まずはどんな場面でトラブルが起きやすいのかを知っておくことが、慌てず対応する第一歩になります。
電池切れのサイン
補聴器の電池は種類にもよりますが、使用時間に応じて数日〜1週間程度で交換が必要になります。「ピピッ」という警告音が鳴ったり、音が急に小さく・こもって聞こえるようになったりするのは電池切れの典型的なサインです。慌てて音量を上げようとする前に、まず電池残量を疑ってみましょう。
汗・湿気によるトラブル
夏場の汗や梅雨時期の湿気は、補聴器内部の電子部品にとって大敵です。汗をかきやすい季節や入浴の前後は特に注意が必要で、湿気が原因で音が途切れたり、雑音が混じったりすることがあります。「最近雑音が増えた」と感じたら、湿気対策を見直すタイミングかもしれません。
耳垢づまり・チューブの劣化
耳あな型・耳かけ型どちらの補聴器でも、耳垢が音の出口に詰まると音がこもって聞こえます。また、耳かけ型のチューブは半年〜1年程度で硬化・変色してくるため、定期的な交換が必要です。購入した補聴器専門店で、定期点検を受ける習慣をつけておくと安心です。
介護の現場に伺っていた頃も、電池切れに気づかないまま何日も過ごしていた方を何度も見てきました。ご本人は「聞こえにくいのは年のせい」と思い込んでいて、実は電池を交換すればすぐに改善する状態だったということも珍しくありません。
今日からできるお手入れの実践
補聴器のトラブルの多くは、日々のちょっとした習慣で防ぐことができます。ここでは、家族が今日から一緒に取り組める具体的な工夫を紹介します。特別な道具や技術は必要なく、毎日の生活の中に組み込めるものばかりです。
電池交換で失敗しないコツ
補聴器用の電池(空気電池)は、シールを剥がした直後ではなく、1〜2分ほど置いてから装着すると本来の性能を発揮しやすくなります。「シールを剥がしてすぐ使うと調子が悪い」と感じている場合は、この一手間を試してみてください。予備の電池は湿気を避け、常温で保管しておくと安心です。
毎晩の乾燥習慣をつくる
補聴器は精密機器のため、就寝前に電池ケースを開けて乾燥ケースに入れる習慣が効果的です。「今日も一日お疲れさま」と声をかけながら、補聴器を専用ケースにしまう——そんな小さなルーティンが、汗や湿気によるトラブルを大きく減らしてくれます。
家族が確認できる声かけポイント
離れて暮らしていると、補聴器の調子まで毎日確認するのは難しいものです。実家に顔を出したときや電話の際に、「聞こえ方はどう?」「電池はいつ交換した?」と具体的に尋ねてみましょう。曖昧な「大丈夫?」ではなく、具体的な質問の方が、本人も答えやすく状態を把握しやすくなります。
予備電池を持ち歩く習慣をつける
外出先で急に電池が切れると、会話が聞き取れず不安な思いをすることになります。財布やポーチの中に予備の電池を1〜2個入れておくよう、家族から声をかけてあげましょう。「念のため」の一手間が、外出時の安心につながります。
実際に私が遠方の家族と電話で話すときも、「聞こえてる?」ではなく「今日は補聴器つけてる? 電池は大丈夫?」と具体的に聞くようにしてから、会話がかみ合わないというすれ違いがぐっと減りました。ちょっとした聞き方の工夫が、日々の安心につながります。
また、自治体によっては高齢者向けの補聴器購入補助制度を設けている場合もあります。買い替えを検討する際は、高齢者が使える公的サービス・補助制度もあわせて確認しておくと、負担を抑えられることがあります。
電池切れを防ぐためにも、まとめ買いできる補聴器用電池を常備しておくと安心です。
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また、湿気対策としてUV除菌ができる乾燥ケースを取り入れているご家庭も増えています。
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お手入れで見落としがちな注意点
家族がよかれと思って行うお手入れが、かえってトラブルの原因になることもあります。ここでは、補聴器のお手入れでありがちな失敗と、注意しておきたいポイントを紹介します。
自己判断で音量・設定を調整しない
「聞こえが悪そうだから」と家族が音量つまみを大きく回してしまうと、かえって聞き取りにくくなったり、ハウリング(キーンという音)の原因になったりします。音質や音量の調整は、購入した補聴器専門店や耳鼻咽喉科での相談を基本にしましょう。
痛み・炎症があるときは自己判断せず受診を
耳の中の痛みやかゆみ、耳だれなどの症状がある場合、補聴器の問題なのか、外耳炎など別の要因があるのか、見た目だけでは判断がつかないこともあります。気になる症状が続くときは自己判断で様子を見ず、耳鼻咽喉科などのかかりつけ医に相談することをおすすめします。本記事は一般的な情報提供であり、個別の診断や治療の代わりになるものではありません。
- 電池切れの警告音が鳴っていないか
- 耳の中に痛みやかゆみ、耳だれがないか
- チューブが硬くなったり変色したりしていないか
- 乾燥ケースを毎晩使えているか
国立長寿医療研究センターなどの研究でも、聴力の低下は加齢に伴う認知機能への影響との関連が指摘されています。聴力の変化は、認知症の早期発見という観点からも見過ごせないサインの一つとされています。難聴を「年のせい」と放置せず、補聴器を上手に使い続けることは、会話を楽しみ、社会とのつながりを保つうえでも大切な意味を持ちます。気になる変化があれば、地域包括支援センターに相談してみるのも一つの方法です。
家族の「聞こえる」を守るために
補聴器のトラブルは、電池切れや湿気対策など、ちょっとした習慣の積み重ねで多くを防ぐことができます。次に実家に帰ったときは、電池の予備があるか、乾燥ケースを使っているかを一緒に確認してみませんか。
「聞こえる」を守ることは、会話を楽しみ、家族とのつながりを保つことにもつながります。次の帰省では、聞こえ方の確認を持ち物リストに加えてみてはいかがでしょうか。
この記事の執筆者について
介護福祉の現場で22年以上、訪問介護や高齢者施設での勤務、自宅での家族介護を経験してきました。現在も遠方に暮らす高齢の家族がおり、「離れて暮らす家族を見守る」ことの難しさを実感者として日々感じています。本記事も、そうした現場と実生活の両方の経験をもとに執筆しています。
