親の聞こえに気づいたら|集音器・補聴器の選び方

敬老の日を控えたある夜、実家の父に電話をかけると、いつもより会話がかみ合いませんでした。「今日は何時に着くの?」と聞いたつもりが、「え、来週?」と的外れな返事が返ってくる。笑って聞き返しながらも、内心では小さな違和感が残りました。

顔を合わせていれば口の動きや表情から察することができますが、電話越しではそうもいきません。本人は「聞こえている」つもりでも、実際には言葉の一部を聞き取れていないことがあります。離れて暮らす家族ほど、こうした変化に気づくタイミングが遅れがちです。

厚生労働省の調査でも、高齢になるほど聞こえに不便を感じる人の割合が増えることが示されています。特別なことではなく、多くの家庭が同じように向き合っているテーマです。気負わず、まずは今の状況を整理するところから始めてみましょう。

この記事では、加齢による聞こえの変化がなぜ起こるのか、家族が見逃しやすいサインは何か、そして集音器・補聴器を含めた今日からできる対策を、現場での経験も交えて紹介します。

ベンチで会話する高齢者
会話がすれ違う小さな変化に注目

「年のせい」で片づける前に知っておきたいこと

加齢性難聴が起こる仕組み

高齢になると誰にでも起こりうるのが「加齢性難聴(老人性難聴)」です。耳の中で音を感じる細胞が少しずつ衰えることで起こる自然な変化で、特に高い音や、複数人が同時に話す場面での聞き取りが難しくなりやすい傾向があります。

「か・さ・た・は」行のような高い音は早くから聞き取りにくくなる一方、低い音は比較的聞こえているため、本人は「普通に会話できている」と感じやすいのが厄介な点です。テレビの音量を上げても言葉がはっきりしない、という違和感があるときは、音の大きさよりも聞き分けそのものが難しくなっているサインかもしれません。

本人が気づきにくい理由

多くの場合、加齢性難聴は片耳ずつゆっくり進行するため、本人が「聞こえていない」と自覚しにくい特徴があります。周囲が先に変化に気づくケースが非常に多く、指摘されて初めて実感する方も少なくありません。

帰省したときや電話で話したときに、次のような様子がないか確認してみてください。

  • テレビや電話の音量がいつも大きい
  • 会話の中で「え?」「もう一回言って」が増えた
  • 後ろから声をかけても反応が薄い
  • 複数人で話す場所(レストランや親戚の集まりなど)を避けるようになった
  • 電話の内容が微妙にずれて伝わっている

聞こえにくさが暮らしにもたらす影響

聞こえの変化を「年のせい」のまま放置すると、会話がおっくうになり、外出や人付き合いが少しずつ減っていくことがあります。一人暮らしの高齢者が増えている背景には、こうした「聞こえにくさからの孤立」も一因として指摘されています。

また、国立長寿医療研究センターなどの研究では、難聴と認知機能の低下との関連も指摘されています。認知症の早期サインと紛らわしい場面もあるため、「話が通じていない」ことを安易に「もの忘れ」と決めつけないよう注意が必要です。ただし症状だけで判断できるものではないため、気になる変化があれば自己判断せず専門機関に相談することが大切です。

補聴器のクローズアップ
聞こえを補う道具はいろいろある

まず声かけと環境から見直す

会話をスムーズにする工夫

集音器や補聴器を検討する前に、家族の声かけを少し変えるだけでも会話はしやすくなります。難しい機器の話をする前に、まずここから始めてみましょう。

  • 後ろからではなく、正面から顔を見て話しかける
  • 早口を避け、いつもよりひと呼吸ゆっくり話す
  • テレビを消してから会話を始める
  • 大声を出すより、低めの声ではっきり話す方が伝わりやすいこともある

実際の声かけの例です。「お父さん、テレビ消してからでいい?ちょっと話したいことがあるの」というように、会話の前に一度合図を入れるだけで聞き取りやすさが変わります。

電話やメールでの連絡の工夫

電話は表情や口の動きが見えないぶん、対面よりも聞き取りにくく感じる方が多い手段です。大事な連絡は電話だけで済ませず、後からメッセージやメモでも伝えるようにすると、聞き違いによる行き違いを減らせます。

電話の最後に「今言ったこと、あとでLINEでも送っておくね」とひとこと添えるだけで、本人も安心して聞き返せるようになります。スマホが苦手な親と繋がる連絡の工夫もあわせて参考にしてみてください。

電話そのものが聞き取りにくいと感じている場合は、受話器の音を大きくできる電話機や、後付けの拡声器という選択肢もあります。

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電話の聞き取りにくさに悩んだら

集音器・補聴器という選択肢

集音器と補聴器の違い

会話の工夫だけでは難しいと感じたら、集音器や補聴器の利用を検討してみましょう。集音器は医療機器ではなく、比較的手軽な価格で試しやすいのが特徴です。テレビや来客時の会話用に導入するご家庭も増えています。

本格的に聞こえの改善を目指す場合は、耳鼻咽喉科を受診したうえで、専門店で聴力に合わせて調整された補聴器を選ぶのが安心です。まずは集音器で様子を見て、必要に応じて専門的な補聴器へ切り替えるご家庭も多くあります。

  • 集音器:家電量販店やネットで手軽に購入できる。試しやすい反面、調整の細かさは限られる
  • 補聴器:耳鼻咽喉科の診断のもと専門店で聴力に合わせて調整。費用は高めだが、フィット感が高い

なお、自治体によっては高齢者向けの補聴器購入費助成制度を設けている場合があります。お住まいの市区町村の窓口や地域包括支援センターに、対象条件や助成額を確認してみるとよいでしょう。

実際に試しやすいアイテム

集音器を試してみたい場合、目立たずに使えるタイプから選ぶと本人の抵抗感が少なくなります。

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ワイヤレスイヤホン型集音器ワイヤレスイヤホン型集音器(5段階音量)
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目立たず普段使いしやすいタイプです

テレビの音量が特に気になる場合は、手元で音を聞けるネックスピーカーというアイテムもあります。なお、日常使いできるアイテムとしてこちらも参考にしてみてください。

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テレビ用ネックスピーカーBluetoothネックスピーカー(テレビ用)
参考価格:¥4,980〜(楽天市場)
テレビの音量を上げずに済むアイテムです

医師による診察の様子
気になったら早めに受診を

導入後に気をつけたいこと

集音器や補聴器を導入する際、いくつか気をつけたい点があります。せっかく用意しても使ってもらえない、というケースを避けるために確認しておきましょう。

  • 集音器はすべての音を大きくするため、雑音がうるさく感じられ嫌がられることがある
  • 本人に相談せず先に購入すると、抵抗感から使ってもらえないことが多い
  • 「聞こえない=もの忘れ」と決めつけず、まずは耳鼻咽喉科での検査を優先する
  • 片耳だけでなく両耳の状態を確認してもらう

聞こえの変化には、耳あかの詰まりや中耳炎など他の要因が関わっている場合もあります。自己判断で集音器だけに頼らず、気になる症状があれば必ずかかりつけ医や耳鼻咽喉科にご相談ください。本記事の内容は一般的な情報提供であり、個別の診断や治療に代わるものではありません。

実際に集音器や補聴器を使い始めたあとも、電池切れや汚れによる不調が起こることがあります。補聴器の電池交換とお手入れのコツも事前に知っておくと、せっかく導入した機器を長く快適に使い続けられます。

家族みんなで見守る体制をつくる

聞こえのサポートは、一人が気づいても本人には伝わりにくいことがあります。帰省した家族が気づいたことをきょうだいで共有し、次に会う人が同じ視点で様子を見られるようにしておくと安心です。

私自身、遠方に住む家族と月に数回しか電話で話せない中で、声のトーンや聞き返しの回数から「あれ、いつもと違うな」と気づいたことがあります。顔を合わせる帰省のタイミングだけでなく、電話越しの小さな違和感にも意識を向けておくことが、聞こえの変化に早く気づく手がかりになると実感しています。

次に集まる機会があれば、家族みんなで「テレビの音量」「聞き返しの回数」など気づいたポイントを話し合ってみるのもおすすめです。一人だけで抱え込まず、家族で見守っていく体制を作ることが、本人にとっても相談しやすい環境につながります。

次に実家へ帰ったとき、あるいは次に電話で話すときには、テレビの音量や会話の様子をさりげなく気にかけてみてください。小さな気づきの積み重ねが、親の暮らしを守る一番の近道になります。


この記事の執筆者について

介護福祉の現場で22年以上、訪問介護や高齢者施設での勤務、自宅での家族介護を経験してきました。現在も遠方に暮らす高齢の家族がおり、「離れて暮らす家族を見守る」ことの難しさを実感者として日々感じています。本記事も、そうした現場と実生活の両方の経験をもとに執筆しています。

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