先日実家に顔を出すと、お母さんが押し入れの上段から冬物の毛布を出そうと、リビングの椅子の上に乗って背伸びをしていて、思わず「危ない、危ない!」と声をあげてしまった――そんなヒヤッとした経験がある方も多いのではないでしょうか。9月に入り朝晩が涼しくなると、いよいよ衣替えの季節です。この記事では、衣替えの時期に増える踏み台・脚立からの転倒事故がなぜ起きやすいのか、その原因と、今日から取り入れられる具体的な予防策をご紹介します。

衣替えの時期になぜ「踏み台からの転倒」が増えるのか
衣替えは年に2回程度しか行わない作業です。だからこそ、普段の生活動線にはない「不安定な足場」に無防備なまま乗ってしまいがちです。押し入れの上段やクローゼットの高い棚は、脚立や踏み台がなければ手が届きません。ところが多くのご家庭では、専用の踏み台ではなく、キッチンの椅子やダイニングチェアで代用してしまっているのが実情です。
年に数回しか使わない不安定な足場
椅子は本来、座るための家具であり、上に乗ることを想定して作られていません。座面が小さく傾きやすいものも多く、体重をかけたときにぐらついたり、キャスター付きの椅子であれば動いてしまったりする危険もあります。東京消防庁の調査でも、家庭内の事故で救急搬送される高齢者のうち、脚立や踏み台、椅子からの転落・転倒が一定数を占めることが報告されています。
加齢による筋力・バランス能力の低下
若い頃は何でもなかった「一段上がる」「背伸びして手を伸ばす」という動作も、加齢とともに難しくなっていきます。片足立ちのバランスを崩しやすくなったり、とっさに手をつく反射が遅れたりすることが、転倒を骨折などの大きなケガにつなげてしまいます。足腰の衰えが気になる場合は、フレイル予防のチェックポイントも参考にしながら、日頃から様子を見ておくと安心です。気になる症状が続く場合は、自己判断せずかかりつけ医にご相談ください。
「これくらい大丈夫」という思い込み
「毎年やっていることだから」「これくらいの高さなら平気」という思い込みが、一番の落とし穴です。電話で「危ないから誰かいるときにやってね」と伝えても、「大丈夫、大丈夫」と笑って流されてしまった経験はありませんか。私自身、離れて暮らす家族がいるからこそ、電話越しの明るい声の裏に、本人も気づいていない小さな無理が隠れているかもしれないと、もどかしく感じることがあります。
今日からできる、踏み台事故を防ぐ実践的な対策
衣替えのたびにヒヤヒヤしないためには、道具選びと家族間のルールづくりの両方が欠かせません。特別な工事や大きな出費をしなくても、今日から始められる対策があります。
安定した踏み台・脚立を選ぶポイント
椅子の代用をやめて、専用の踏み台や脚立を1台用意するだけでも安心感が大きく変わります。選ぶときは次のような点をチェックしてみてください。
- 天板が広く、両足でしっかり立てるサイズかどうか
- 脚の先に滑り止めゴムが付いているか
- 持ち手や手すりが付いていて、乗り降りの際につかまれるか
- 高さは2〜3段程度で、収納時に場所を取りすぎないか
- 軽量で持ち運びしやすく、押し入れの前後で移動させやすいか
すでに滑り止め靴下・スリッパを使っている方は、踏み台の上でも滑りにくい靴下や上履きを履いた状態で作業する習慣をあわせて取り入れると、より安心です。
家族で決めておきたい「高い所の荷物」のルール
そもそも、高い所に頻繁に出し入れするものを置かない、という工夫も効果的です。冬物・夏物のように季節ごとに入れ替える荷物は、できるだけ腰の高さ〜目線の高さの棚に置き場所を変えるだけで、踏み台に乗る回数そのものを減らせます。「今度帰ったら一緒に片付けよう」「重いものだけでも先に降ろしておくね」といった声かけをしておくと、本人も無理をせずに済みます。
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踏み台に乗る回数そのものを減らす工夫として、遠くの物を引き寄せられる補助具を活用する方法もあります。高い所に何度も手を伸ばさずに済むだけで、転倒のリスクはぐっと下がります。なお、日常使いできるアイテムとしてこちらも参考にしてみてください。
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高い所に手を伸ばす回数を減らせます
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いろいろなタイプを比較して選べます
衣替えの時期に注意したい、よくある失敗
道具をそろえるだけで安心してしまいがちですが、実際の作業では思わぬ落とし穴もあります。ありがちな失敗パターンを知っておくと、声かけの具体的なヒントになります。
「大丈夫」の思い込みで一人で作業してしまう
せっかく専用の踏み台を用意しても、家族が留守の間に一人で作業してしまっては意味がありません。「休みの日に一緒にやろう」と具体的な日程を先に決めておく、あるいは「上の段だけは私がやるから、下の段だけお願いね」と役割を分けておくと、本人のプライドを傷つけずに安全な作業分担ができます。
サンダルや靴下のまま踏み台に乗ってしまう
「ちょっとだけだから」とサンダル履きのまま、あるいは靴下だけで踏み台に乗ってしまうケースも少なくありません。国民生活センターにも、家庭内での踏み台・脚立からの転落事故に関する相談が寄せられています。踏み台に乗るときは、かかとが固定できる室内履きを履く習慣を家族でルール化しておくと安心です。手すりの設置など住まいの改修を検討したい場合は、介護保険の住宅改修費補助について、お住まいの地域包括支援センターに相談してみるのもひとつの方法です。
衣替え以外の「高い所の作業」にも同じ注意を
踏み台からの転倒が心配なのは、衣替えの季節だけではありません。電球の交換、換気扇やエアコンのフィルター掃除、カーテンの洗濯で取り外す作業なども、同じように高い所に手を伸ばす動作をともないます。「そういえば、電球も切れたままにしてなかったっけ」と、衣替えのタイミングで家じゅうの「高い所作業」をまとめて洗い出しておくと、日々の細かなヒヤリハットを減らすことにつながります。

今年の衣替えは、ちょっとした準備から
踏み台からの転倒は、特別な病気やケガの後ではなく、ごく普通の日常のワンシーンで起こります。だからこそ油断しやすく、防ぐためには特別な工事より先に、専用の踏み台を1台用意すること、そして「高い所の作業は一緒にやろうね」という何気ない声かけが一番の近道です。次に実家に帰る前に、まずは電話で「押し入れの上、椅子に乗ってやってない?」と聞いてみることから始めてみませんか。
この記事の執筆者について
介護福祉の現場で22年以上、訪問介護や高齢者施設での勤務、自宅での家族介護を経験してきました。現在も遠方に暮らす高齢の家族がおり、「離れて暮らす家族を見守る」ことの難しさを実感者として日々感じています。本記事も、そうした現場と実生活の両方の経験をもとに執筆しています。
