実家に電話をかけると、夕食を終えたお父さんが「もう特にすることもないから、テレビを見てるだけだよ」とぽつりと言うことがあります。日が暮れるのが早くなり、夜の時間が長く感じられるこの季節、そんな会話を交わした方も少なくないのではないでしょうか。テレビを眺めるだけで過ぎていく夜を、親子で一緒に頭を使いながら楽しむ時間に変えてみませんか。この記事では、高齢の親に合った脳トレドリルの選び方と、無理なく習慣として続けるための家族の関わり方をご紹介します。
なぜ「秋の夜長」に頭を使う習慣が気になるのか
日没時間が早まる9月から10月にかけては、外出や庭仕事といった活動量が自然と減り、一日のうち屋内で過ごす時間が長くなります。特に一人暮らしの親の場合、話し相手がいないまま黙ってテレビを見て過ごす夜が続くことも珍しくありません。
日照時間が短くなり活動量も会話も減りやすい
夏の間は庭の水やりや夕涼みの散歩で自然と体を動かしていた親も、日が短くなるとともに外に出る機会が減っていきます。活動量が落ちると同時に、家族以外との会話の機会も減り、一日中誰とも言葉を交わさなかったという日が出てくる方もいます。
「刺激の少ない時間」が長引くと家族も気になり始める
毎晩同じようにテレビの前で過ごす様子を見聞きすると、「このままで大丈夫だろうか」と気になり始める子世代は多いものです。ただし、テレビを見て過ごす時間そのものが悪いわけではなく、頭を使う時間や会話の機会とバランスよく組み合わせることが大切です。
会話量が減ると、孤独感にもつながりやすい
厚生労働省の資料でも、高齢者が社会的な交流の機会を保つことの重要性が繰り返し取り上げられています。会話の相手がいない時間が長く続くと、気分の落ち込みや孤独感につながることもあるため、家族との短いやり取りの機会を意識的に増やすことが役立つ場合があります。脳トレドリルは、そのきっかけを作る道具のひとつとして考えると気負わずに取り入れやすいでしょう。
脳トレ=難しい勉強、ではない
「脳トレ」と聞くと、難しい計算やテストのようなものを想像して身構えてしまう親もいます。実際にはクロスワードや間違い探し、簡単な計算パズルなど、遊び感覚で取り組めるものがほとんどです。以前の記事でご紹介した塗り絵で脳トレ習慣のように、「勉強」ではなく「ちょっとした遊び」として紹介すると、抵抗なく手に取ってもらいやすくなります。
親に合った脳トレドリルの選び方と続け方
いざドリルを選ぼうとすると、書店や通販サイトには驚くほど多くの種類が並んでいます。ここでは、高齢の親が無理なく手に取り、続けやすいものを選ぶためのポイントを整理します。
文字の大きさと難易度で選ぶ
まず確認したいのが文字の大きさです。小さな文字がびっしり並んだドリルは、それだけで開くのを億劫にさせてしまいます。大きめの文字で、1ページに問題が詰め込みすぎていないものを選びましょう。難易度も、最初は簡単すぎるかなと感じるくらいのレベルから始めるのがおすすめです。
「できた」が続く分量と会話のきっかけになるものを
1回で何十問も解かせるようなドリルは、途中で疲れてしまい続かなくなりがちです。1回5〜10分程度で「できた」という達成感を得られる分量のものを選ぶと、次のページも開いてみようという気持ちにつながります。また、クロスワードや連想ゲームのように答えを言い合えるタイプは、電話や帰省時の会話のきっかけにもなります。
「お父さん、この間送ったドリルの3問目、答えわかった?」
「ああ、あれか。孫の名前が入ってて笑ったよ」
このようなやり取りひとつで、ドリルが単なる作業ではなく親子のコミュニケーションの道具になります。
「毎日1ページ」より「気が向いた時に」
続けることを目的にすると、「毎日やらなければ」というプレッシャーがかえって負担になることがあります。気が向いたときに気軽に開けるよう、リビングのテーブルなど目につく場所に置いておくくらいの気軽さがちょうどよいでしょう。一人暮らしの親の日々の過ごし方については、高齢者の一人暮らしにおすすめの趣味と選び方|孤独感対策でも詳しく取り上げていますので、あわせてご覧ください。
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脳トレを勧めるときに気をつけたいこと
良かれと思って渡したドリルが、かえって親のプライドを傷つけてしまうこともあります。「これで頭の衰えを防げるから」と効果を強調しすぎると、暗に「衰えている」と言われているように感じ、気分を害してしまう親もいます。あくまで「楽しいから一緒にやってみない?」という誘い方を心がけましょう。
また、間違えた問題を指摘したり、正解を急かしたりするのは禁物です。間違えを笑い合えるくらいの余裕を持って接することで、ドリルの時間が親にとって心地よいものになります。
もの忘れが増えたと感じたり、以前は簡単に解けていた問題に急に手こずるようになったりと、気になる変化がある場合は、脳トレドリルだけで様子を見るのではなく、かかりつけ医や地域包括支援センターに相談することも大切です。国立長寿医療研究センターなども、日常生活の中で頭を使う活動を取り入れることの大切さを紹介していますが、本記事の内容はあくまで一般的な情報提供であり、個別の診断や治療に代わるものではありません。気になる症状がある場合は自己判断せず専門家に相談しましょう。
もの忘れが気になる場合は、日付や曜日を確認しやすい認知症の親に電子カレンダー時計|今日が分かる安心グッズと組み合わせるのもひとつの方法です。
私自身、遠方に住む叔母と月に一度電話で近況を話すのですが、先日「新聞のクロスワードが解けなくて悔しい」と笑いながら話してくれたことがありました。深刻な話ではなく、たわいもない会話のネタとして脳トレの話題が出ることこそが、家族の距離を縮める何よりの効果なのかもしれません。
今夜、実家に電話をかけるきっかけに
秋の夜長は、身構えず気軽に始められる小さな習慣づくりに向いている季節です。難しいことを始める必要はありません。まずは1冊のドリルを、次に帰省するときや荷物を送るときに添えてみることから始めてみましょう。「今日のページ、もうやった?」——そんな何気ないひとことが、親子の会話を増やすきっかけになるはずです。
もうひとつよくあるのが、家族が良かれと思って何冊もドリルを買い与えてしまうケースです。手元に選択肢が多すぎると、かえって「どれから手をつけたらいいかわからない」と億劫になってしまうことがあります。まずは1冊、それも薄めのものから始め、様子を見ながら次を選ぶくらいがちょうどよいペースです。
この記事の執筆者について
介護福祉の現場で22年以上、訪問介護や高齢者施設での勤務、自宅での家族介護を経験してきました。現在も遠方に暮らす高齢の家族がおり、「離れて暮らす家族を見守る」ことの難しさを実感者として日々感じています。本記事も、そうした現場と実生活の両方の経験をもとに執筆しています。
