退院後の体力低下を防ぐ|廃用症候群のサインと家庭ケア

先週、軽い肺炎で5日間入院していたお父さんが退院してきました。「もう元気だから大丈夫」と本人は言うものの、玄関までの数メートルを歩くだけで息が切れ、杖につかまる手にも力が入っていないように見えて、思わず「え、こんなに弱っていたの」と声が出てしまった方もいるのではないでしょうか。

入院前はあれほど元気だったのに、数日間ベッドで過ごしただけで足腰が弱り、動くこと自体を億劫がるようになる。これは「廃用症候群(はいようしょうこうぐん)」と呼ばれる、高齢者によく見られる体の変化です。本記事では、そのサインの見つけ方と、自宅で無理なく体力を取り戻していくための工夫、家族ができるサポートについてお伝えします。なお、急な入院そのものへの備えについては親が急に入院することになったら|準備リストと確認事項でも持ち物や手続きのポイントをまとめていますので、あわせてご覧ください。

笑顔の高齢女性
退院後も笑顔で過ごしたい

「入院前より弱った」と感じたら―廃用症候群とは

廃用症候群とは、病気やけがそのものではなく、安静にしている時間が長くなることで筋力や関節の動き、心肺機能、意欲などが低下してしまう状態を指します。国立長寿医療研究センターなども、高齢者は短期間の安静でも身体機能が低下しやすいことに注意を促しており、若い世代なら数日の安静で大きな影響は出にくいものですが、高齢者の場合はわずか数日のベッド上生活でも筋肉量が目に見えて落ちることが知られています。

たった数日の安静でも筋力は落ちる

個人差はありますが、高齢になるほど筋肉を作る力そのものが弱まっているため、安静による筋力低下のスピードは若い頃より早く進みます。「入院中は検査や点滴で動く機会が少なかった」「痛みが心配で看護師に動いてもいいか聞けなかった」というケースも多く、本人が意図せず体を動かさない時間が増えてしまうことも少なくありません。足腰の衰えそのものについては残暑で弱る親の足腰|フレイル予防チェックと対策でも取り上げていますが、入院による安静も同じ方向のリスクとして重なってきます。

気づきにくいまま進む理由

家族としては「無事に退院できた」という安心感が先に立ち、歩き方や食欲の変化に気づくのが遅れがちです。本人も「年だから仕方ない」「少し休めば戻る」と思い込みやすく、周囲に不調を伝えないまま過ごしてしまうことがあります。久しぶりに顔を合わせる家族だからこそ気づける変化もあるはずです。「前はもっと早く立ち上がっていたな」「声の張りが少し弱くなった気がする」といった小さな違和感も、見逃さずに覚えておきましょう。

チェックしたい具体的なサイン

  • 歩く速さが入院前より明らかに遅くなった
  • 椅子やベッドから一人で立ち上がるのに時間がかかる
  • 食事量や水分摂取量が減っている
  • 会話中にぼんやりしていることが増えた
  • 「動くのが怖い」「面倒だ」という発言が増えた

一つでも当てはまるからといって慌てる必要はありませんが、複数のサインが重なっている場合や、数週間経っても改善の兆しが見られない場合は、自己判断で様子を見続けるのではなく、かかりつけ医や退院時に説明を受けた病院の相談窓口に一度状況を伝えてみることをおすすめします。

今日から家庭でできる体力回復のサポート

廃用症候群からの回復は、退院直後の数週間の過ごし方で大きく変わるといわれています。ポイントは、いきなり元の生活に戻そうとせず、「座ったままでもできること」から少しずつ体を動かす機会を増やしていくことです。

座ったままでもできる運動から始める

いきなり外を歩く練習から始めるのは、転倒のリスクもあり本人の気持ちもついていきません。まずはソファや椅子に座ったまま、足を交互に上げ下げする、足踏みをするといった軽い動きから始めると、本人も「これならできそう」と感じやすくなります。テレビを見ながら、家族との会話中にといった「ながら運動」として取り入れるのも続けやすい工夫です。

手や指を使う軽い運動で意欲を保つ

足腰の運動だけでなく、手や指を使う運動も気持ちの活性化につながります。やわらかいボールを握ったり、タオルを軽く絞ったりする動きは、力の弱った手でも始めやすく、「できた」という小さな達成感が本人のやる気を支えてくれます。

家族が連携してできること

毎日様子を見られる家族がいない場合は、電話や短い訪問のたびに「今日は何歩くらい歩けた?」「お散歩は行けそう?」と具体的に聞いてみましょう。「頑張って」ではなく「今日は玄関まで行けたんだね、すごい」のように、できたことを一緒に喜ぶ声かけが、本人の意欲を長く保つコツです。食事量が落ちている場合は、たんぱく質の摂り方を見直すのも一つの方法で、高齢者の筋力低下を防ぐ|プロテインの選び方と摂り方も参考になります。

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無理のない範囲で体を動かす

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無理をさせないための注意点・よくある失敗

「早く元の生活に戻そう」と急かしすぎない

家族が良かれと思って「もう少し頑張って歩いてみたら」と励ますつもりの一言が、本人にとっては負担に感じられることがあります。回復のペースは一人ひとり違うため、前日より少しでも動けていれば十分と捉え、無理に距離や回数を伸ばそうとしないことが大切です。

痛みや息切れが続く場合は迷わず相談を

動くこと自体はよいことですが、安静にしていた期間が長いと、思わぬ場所に痛みが出たり、少し動くだけで息切れがしたりすることもあります。こうした症状が数日経っても改善しない、あるいは徐々に強くなっているように感じる場合は、自己判断で我慢させず、かかりつけ医や退院先の病院の相談窓口、お住まいの地域包括支援センターに相談してください。本記事は一般的な情報をまとめたものであり、個別の状態の診断や治療方針の判断に代わるものではありません。

家族と笑顔で過ごす高齢者
家族の支えが回復の力になる

退院後の数週間が、その先の生活を左右する

退院できたことは一つのゴールですが、本当に大切なのはそこからの数週間の過ごし方です。小さな「できた」を積み重ねることが、本人の自信を取り戻し、再び自分の足で日常生活に戻っていく力になります。

現場でも、退院直後の数週間をどう過ごしたかで、その後の生活の自立度が大きく変わる方々を数多く見てきました。遠方に住む自分の家族が入院した時も、電話口で「大丈夫、歩けてるよ」と言われるだけでは実際の様子が分からず、もう一歩具体的に聞く大切さを実感したことがあります。

退院後しばらくは、本人の「できること」に目を向けながら、無理のない範囲で体を動かす時間を一緒に作っていきましょう。「今日は何をして過ごした?」と聞くだけでも、本人が自分の一日を振り返るきっかけになります。次に顔を合わせたときの小さな変化に、きっと気づけるはずです。


この記事の執筆者について

介護福祉の現場で22年以上、訪問介護や高齢者施設での勤務、自宅での家族介護を経験してきました。現在も遠方に暮らす高齢の家族がおり、「離れて暮らす家族を見守る」ことの難しさを実感者として日々感じています。本記事も、そうした現場と実生活の両方の経験をもとに執筆しています。

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