お彼岸のお墓参り|足腰が不安な親と無理なく行く工夫

「今年のお彼岸は、お墓参りに行けそうにないわ。」

電話の向こうで、80代で一人暮らしの母がぽつりとつぶやきました。去年は墓地の階段の途中で息が上がり、帰り道は何度も立ち止まっていたことを、私はよく覚えています。それでも「行かないと、お父さんに申し訳なくてね」と話す声には、行けない悔しさがにじんでいました。

秋のお彼岸は、ご先祖さまや亡くなった家族に手を合わせる大切な時期です。一方で、足腰に不安を抱える親御さんにとっては、暑さの残る墓地への外出が思った以上の負担になることもあります。「連れて行ってあげたいけれど、転んだらどうしよう」と悩む子世代の方も多いのではないでしょうか。

この記事では、足腰が心配な親御さんと無理なくお墓参りをするための準備と当日の工夫を、介護の現場や離れて暮らす家族との経験をもとにお伝えします。

秋のお彼岸に咲く彼岸花
秋のお彼岸に咲く彼岸花

お墓参りが親の体にこたえる理由

墓地は「歩きにくい場所」の集合体

霊園やお寺の墓地には、思いのほかつまずきやすい場所が多くあります。石段や砂利道、水汲み場までの長い距離、雨上がりのぬかるみ、手すりのない斜面などです。

普段は元気に歩いている親御さんでも、慣れない場所ではバランスを崩しやすくなります。さらに、しゃがんで掃除をしたあとに立ち上がる動作は、ひざや腰への負担が大きく、ふらつきにつながることもあります。

9月のお彼岸は「まだ暑い」ことがある

お彼岸は、秋分の日を中日として前後3日ずつの計7日間で、2026年は9月20日ごろから26日ごろにあたります。暦の上では秋でも、日中は真夏のような日差しが残る日があり、日陰の少ない墓地では体感温度がさらに高くなります。

厚生労働省は、高齢の方は暑さやのどの渇きを感じにくくなる傾向があるとして、こまめな水分補給や無理のない外出を呼びかけています。本人が「大丈夫」と言っていても、家族のほうから先に声をかける意識が欠かせません。熱中症の基本は、外出時の熱中症対策|親を守る冷感タオル・冷却グッズの選び方でも詳しく紹介しています。

「行けない」と言い出せない親の気持ち

足腰がつらくても、親御さんが自分から「今年は無理」と言い出しにくいのには理由があります。お墓参りは、亡くなった配偶者やご両親との大切なつながりであり、「行けなくなったら、衰えを認めることになる」と感じる方も少なくありません。

遠方に暮らす家族を持つ身として、私も電話口の「大丈夫よ」という言葉をそのまま受け取ってよいのか、迷うことがよくあります。だからこそ、体調を問いただすより先に「今年はどうしようか、一緒に考えよう」と切り出すほうが、親御さんも本音を話しやすくなると感じています。

無理なく行くための事前準備

日程と時間帯は「涼しさ」と「余裕」で決める

お彼岸の期間中でなければならない、という厳密な決まりはないと考える家庭も多く、菩提寺や地域の慣習がある場合だけ家族で確認しておけば十分です。連休の中日など混み合う日を避け、期間の前後や午前中の早い時間帯を選ぶだけで、暑さも人混みもぐっと和らぎます。

当日の朝に体調を確認し、少しでもすぐれないようなら延期する。この約束を前もってしておくと、親御さんも「迷惑をかけるから」と無理をせずに済みます。

下見と、管理事務所への問い合わせ

可能であれば、家族が先に一度墓所まで行って、足元の状態を確認しておくと安心です。遠方で難しい場合は、霊園やお寺の管理事務所に電話で「駐車場から墓所までの距離」「段差や階段の有無」「休憩できる場所」「水汲み場の位置」を尋ねてみてください。

霊園によっては、手桶や掃除用具を貸し出していたり、車椅子でも通りやすい通路が整っていたりすることもあります。歩行を支える道具については、親の歩行がふらつく|杖・シルバーカーの選び方も参考にしてください。

荷物は家族が持ち、親は「手ぶら」で

お花、線香、手桶、掃除道具、飲み物。お墓参りの荷物は、集めてみると意外に重くなります。重い荷物を持ったまま砂利道を歩くのは、転倒のもとです。

荷物はすべて子世代が持ち、親御さんには手を空けて歩いてもらいましょう。手が空いていれば、いざという時に手すりや家族の腕につかまることもできます。持ち物の目安は、次のとおりです。

  • 飲み物(水やお茶を多めに)と、帽子・日傘
  • 滑りにくく、履き慣れた靴
  • 座って休める折りたたみ椅子、または座れる杖
  • ウェットティッシュ、ゴミ袋、軍手
  • 家族の連絡先を登録した携帯電話

墓前での声かけ例

当日は、親御さんの「やりたい気持ち」を尊重しつつ、体に負担のかかる作業だけを家族が引き受けるのがコツです。たとえば、こんな声かけなら角が立ちません。

「お母さん、掃除と水汲みは私たちでやるから、椅子に座って手を合わせて。一番大事なのは、お母さんの気持ちだもの。」

「日が高くなってきたね。日陰で少し休んでから、ゆっくり帰ろうか。」

「やらせてもらえない」と感じさせないよう、「お願いしたいことがある」という形で役割を渡すのも一つの方法です。花を生ける、お経を唱える、お父さんの思い出話をする。親御さんにしかできない役割は、たくさんあります。

木陰の道を歩く高齢者
涼しい時間帯にゆっくりと

なお、墓前で少し腰を下ろしたい時のために、座れる杖のようなアイテムもあります。使い方や耐荷重は商品ごとに異なるため、購入前に説明書で確認し、不安がある場合はケアマネジャーや地域包括支援センター、かかりつけ医に相談してみてください。

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墓前で少し腰を下ろしたい時に

お墓参りの用品をひとまとめにしておきたい時には、こんなセットもあります。

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お墓参りの用品をまとめたい時に

当日に起こりがちな失敗と注意点

親が張り切って作業を引き受けてしまう

久しぶりに墓前に立つと、「せっかくだから草をむしっておこう」「石を磨いておきたい」と、つい体を動かしてしまう親御さんは少なくありません。しゃがんだ姿勢が長く続いたあとに急に立ち上がると、立ちくらみやふらつきが起きやすくなります。

しゃがむ作業は家族が担当し、親御さんには椅子に座ったまま、できる範囲で参加してもらうようにしましょう。

「あと少し」が重なって、休憩を取らない

お花を替えて、線香をあげて、隣の区画のご家族にも挨拶をして。気がつけば、日向で1時間近く過ごしていた、ということもあります。

のどが渇いたと感じる前に飲み物を口にしてもらい、日陰で休む時間をあらかじめ予定に組み込んでおくと安心です。

いつもと違う様子があったら、迷わず切り上げる

顔色がすぐれない、ふらつく、息が上がる、受け答えがいつもよりぼんやりしている。こうした様子が見られたら、お参りの途中でも切り上げて、涼しい場所で休ませてください。意識がはっきりしない、呼びかけへの反応が鈍いなど、緊急性を感じる場合は、ためらわず119番に連絡してください。

帰宅後もふらつきや息切れが続くようなら、かかりつけ医にご相談ください。この記事でご紹介している内容は一般的な情報提供であり、個々の体調に対する診断や治療の代わりになるものではありません。

秋の公園の木製ベンチ
こまめな休憩が安心につながる

行けない年があっても、お墓との関係は続けられる

体調や天候の事情で、どうしても足を運べない年もあります。その場合でも、お墓参りの気持ちを形にする方法はいくつかあります。

たとえば、家族が代わりにお参りをして、写真や動画を親御さんに送るのも一つの方法です。花を供えた様子を見てもらいながら、電話で一緒に手を合わせる時間を持つ家庭もあります。

移動そのものが難しくなってきた場合は、お住まいの地域の地域包括支援センターに、外出を支えるサービスや制度があるか相談してみてください。内容は自治体によって異なるため、まずは窓口で聞いてみるのが近道です。

お彼岸は、お墓の管理や、この先の供養をどうするかという話を、親御さんから自然に聞ける貴重な機会でもあります。「お墓のことで、気がかりなことはない?」と尋ねてみて、聞いた内容はエンディングノートの書き方|家族との話し合い方と注意点のように、書き留めておくと後々の安心につながります。

来年のお彼岸のために、今日できる一本の電話

お墓参りは、お参りを終えて、無事に家へ帰り着くまでが一つの行事です。荷物を持つ、日陰を選ぶ、座って手を合わせてもらう。どれも小さな工夫ですが、積み重ねれば、親御さんが「まだ行ける」と思える時間を少しでも長く守ることができます。

お彼岸のうちに、お母さんやお父さんに電話をかけてみてください。「今年のお墓参り、何時ごろ行く?荷物は私が持つよ」。その一言が、親子で同じ場所に立つ今年のお彼岸を、きっと穏やかなものにしてくれます。


この記事の執筆者について

介護福祉の現場で22年以上、訪問介護や高齢者施設での勤務、自宅での家族介護を経験してきました。現在も遠方に暮らす高齢の家族がおり、「離れて暮らす家族を見守る」ことの難しさを実感者として日々感じています。本記事も、そうした現場と実生活の両方の経験をもとに執筆しています。

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