先日、敬老の日に実家に帰ると、母から「紅葉狩りに誘われたんだけど、もう長く歩けないから断ろうと思って」と寂しそうに言われ、胸が痛んだという方も多いのではないでしょうか。膝や腰の痛み、体力の低下で外出をためらう高齢の親を持つご家族は少なくありません。この記事では、親と一緒に安心して出かけるための車椅子の選び方と、介護保険レンタルの活用法を、現場での経験も交えてご紹介します。
なぜ「歩く」ことが親の負担になっていくのか
膝や腰の痛み、体力の低下という現実
70代、80代になると、膝や腰の関節に負担がかかりやすくなり、長い距離を歩くこと自体がつらくなっていきます。「駅までなら歩けても、観光地を回るのは難しい」というように、日常の買い物と遠出のハードルが分かれてくるのが特徴です。痛みの原因や治療については自己判断せず、まずはかかりつけ医や整形外科に相談することをおすすめします。
「迷惑をかけたくない」という親の気持ち
多くの高齢の親は、家族に迷惑をかけたくないという思いから、「もう出かけなくていい」「留守番している」と自分から外出を諦めてしまいます。実際には「一緒に行きたいけれど、歩けないのが申し訳ない」と感じているケースが多く、本音を聞き出すには「歩くのがつらいなら車椅子を借りてみない?」と具体的な提案をしてみることが有効です。
外出を諦めることで進む心と体の変化
外出の機会が減ると、筋力の低下だけでなく、人と話す機会や季節を感じる機会も失われ、気分の落ち込みにつながることがあります。「歩けないから諦める」ではなく「車椅子を使えば行ける」という選択肢を家族から示してあげることが、親の生活の張りを取り戻す一歩になります。
実際、私が担当したご家族でも「車椅子を借りてみたら、思ったより外に出るようになった」という声をよく聞きます。最初のハードルは「車椅子を使う」という決断そのものであることが多く、一度体験してみると親自身の気持ちが変わるケースも少なくありません。
車椅子選びの基本ポイント
自走式か介助式か、使うシーンで選ぶ
杖やシルバーカーでは対応が難しくなってきたら、車椅子も選択肢に入れてみましょう。杖・シルバーカーの選び方で紹介した歩行補助具と使い分けることで、体調や距離に応じた外出がしやすくなります。車椅子には、本人がハンドリムを操作して自分で動かす「自走式」と、家族や介助者が後ろから押す「介助式」があります。紅葉狩りや遠出のお出かけがメインなら、軽量でコンパクトな介助式が扱いやすく、自宅周辺の散歩も含めるなら自走式も検討する価値があります。
軽量・折りたたみで持ち運びやすさを重視する
車での移動が多いご家庭では、トランクに積み込む機会が増えるため、重量と折りたたみサイズは特に重要なポイントです。最近は10kg前後まで軽量化されたアルミ製のモデルも多く、女性や高齢の配偶者一人でも積み下ろししやすくなっています。実際に店舗や展示会で親に座ってもらい、乗り心地を確認してから選ぶと安心です。
福祉用具の専門店や介護用品店では、複数のモデルを試乗できることも多いので、通販だけで決めずに一度足を運んでみることをおすすめします。
購入とレンタル、どちらが向いているか
要介護・要支援の認定を受けている場合、介護保険の福祉用具貸与制度を使えば、車椅子を1割程度の自己負担でレンタルできることがあります。「たまにしか使わない」という場合はレンタル、「毎日の生活に欠かせない」という場合は購入が向いています。介護保険の申請方法については介護保険の申請方法も参考にしてください。
- 週1回程度の外出なら:レンタルで様子を見る
- 毎日の通院や買い物にも使うなら:購入を検討
- 体格や体調の変化が予想されるなら:レンタルで調整しやすくする
出かける前のちょっとした準備
車椅子を用意しても、当日になって「思ったより疲れてしまった」ということがあります。日差しが強い日は帽子やひざ掛けを用意する、長時間の外出ならトイレの場所を事前に調べておくなど、ちょっとした準備が親の負担を減らします。「今日はどのくらいの時間なら大丈夫そう?」と本人に体調を確認しながら計画を立てると、無理のないお出かけになります。
なお、日常使いできるアイテムとしてこちらも参考にしてみてください。
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車椅子を使うときに気をつけたい注意点
サイズが合わないと体に負担がかかる
車椅子は座面の幅や奥行き、フットレストの高さが体に合っていないと、かえって腰や膝に負担がかかったり、姿勢が崩れて疲れやすくなったりします。特に既製品を選ぶ際は、購入前に親の体格に合ったサイズかどうかを必ず確認しましょう。福祉用具の専門相談員や地域包括支援センターに相談すると、体格に合ったモデル選びのアドバイスをもらえることもあります。
段差や坂道での事故を防ぐ
車椅子での外出中に多いのが、段差でのつまずきや、坂道での急な加速によるヒヤリ・ハットです。「段差の手前で声をかける」「坂道ではゆっくり進む」など、押す側もちょっとした声かけを習慣にすると安心です。実際に私も遠方の家族と出かける際、段差ごとに「ここ、ちょっと揺れるよ」と声をかけるようにしてから、母の表情がぐっと和らいだのを覚えています。
乗り降りの際の抱え方や移乗の負担については、移乗介助の負担を減らす工夫で詳しく紹介していますので、あわせてご確認ください。
「行けない」を「行ってみようか」に変えるために
車椅子は「介護が必要になった証」ではなく、「親と一緒に出かけ続けるための道具」だと捉えると、提案しやすくなります。まずは近所の散歩や、日帰りで行ける紅葉スポットなど、無理のない範囲から試してみてはいかがでしょうか。
「今度の休み、車椅子借りて一緒に紅葉見に行こうか」——そんな一言が、親にとって何よりの贈り物になるかもしれません。
体調や体格は季節や年齢とともに変化していくものです。一度選んだ車椅子が合わなくなることもあるため、半年から1年に一度は「今のサイズや使い方で無理がないか」を親子で確認する機会を作っておくと安心です。国立長寿医療研究センターなどでも、高齢者の外出機会の維持が心身の健康につながることが紹介されています。難しく考えすぎず、まずは家族の会話の中で「今度どこか行ってみようか」と話題にしてみることから始めてみてください。
この記事の執筆者について
介護福祉の現場で22年以上、訪問介護や高齢者施設での勤務、自宅での家族介護を経験してきました。現在も遠方に暮らす高齢の家族がおり、「離れて暮らす家族を見守る」ことの難しさを実感者として日々感じています。本記事も、そうした現場と実生活の両方の経験をもとに執筆しています。
