9月の終わり、朝晩がぐっと冷え込むようになった頃に実家へ顔を出すと、80代のお母さんが夏のあいだ履き続けた薄い靴下のまま、台所のフローリングをすっすっと擦るように歩いていました。冷蔵庫の前で足がつるりと横に流れ、思わず「危ない!」と声が出た——そんな場面に心当たりのある方も多いのではないでしょうか。
本人は「家の中だから平気」と笑っていても、見ているこちらは肝が冷えますよね。靴下とスリッパは毎日必ず身につけるものなのに、転倒対策としては後回しにされがちです。この記事では、室内で転びやすくなる理由から、滑り止め靴下・スリッパの選び方、足のサイズの測り方、買い替えの目安、親に切り出すときの声かけまでを順にお伝えします。
ここでご紹介するのは一般的な情報であり、一人ひとりの身体の状態に対する診断や助言の代わりにはなりません。歩き方や足に気になる変化があるときは、かかりつけ医などの専門家にご相談ください。

家の中で転ぶのは、足元の小さな変化が重なるから
くたびれた靴下と「すり足」が出会うと
靴下は洗濯と着用を繰り返すうちに足裏の生地が薄くなり、フローリングとの摩擦がだんだん減っていきます。化学繊維の割合が多いものは特につるつるしやすく、新品の頃とはまるで別物になっていることも珍しくありません。
加齢で足腰の筋力が落ちてくると、足を高く上げない「すり足」の歩き方になりやすくなります。すり足のままでは、カーペットの端やコードのわずかな段差に引っかかっただけでも体勢を崩しがちです。国立長寿医療研究センターなどの情報でも、加齢に伴う筋力やバランス機能の変化が転倒のしやすさに関わるとされています。
「家の中は安全」という思い込み
消費者庁や厚生労働省などが公表している資料では、高齢者の転倒事故が自宅の居室・廊下・階段といった日常の生活の場で起きていることが繰り返し示されています。慣れた場所ほど注意が薄れやすく、「外出のときだけ気をつければいい」という感覚が、足元の備えを遅らせてしまうのです。
転倒による骨折をきっかけに、外出や活動量が減り、介護が必要になるケースも少なくありません。だからこそ、大きな出来事が起きる前に足元から見直しておく価値があります。
季節の変わり目に見直したい理由
夏は汗で靴下やスリッパの底が湿り、思った以上に滑りやすくなります。一方、秋の衣替えの時期は、しまっておいた厚手の靴下を引っ張り出したものの、去年のまま生地が傷んでいたり、足に合わなくなっていたりすることがあります。
季節が切り替わる今のタイミングは、親御さんの足元を総点検するのにちょうどよい機会です。
靴下とスリッパ、選ぶときの見どころ
靴下は「滑り止めの位置」と「履き口」を見る
靴下は、足裏全体、とくにかかととつま先の付け根に滑り止めがあるものが安心です。ゴム粒が広めに配置されていると、歩き出しの一歩目でも床をとらえやすくなります。
あわせて確認したいのが履き口です。締め付けが強いと、むくみやすい日に苦しくなって脱いでしまい、結局は裸足で歩くことになりかねません。洗濯機で洗えて乾きやすい素材だと、清潔に保ちやすく、続けて履いてもらいやすくなります。
スリッパは「脱げにくさ」がいちばん
訪問介護の現場にいた頃、いちばん気になったのは、かかとを踏み潰したスリッパや、ぱかぱかと脱げやすいつっかけタイプでした。足の甲をしっかり覆い、かかとまで包むタイプは、すり足でも脱げにくく安心感があります。
スリッパの形がどうしても合わない方は、かかとのある室内履き(ルームシューズ)に切り替えるのも一案です。つま先が少し持ち上がった形のものは、段差にも引っかかりにくくなります。
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足のサイズは「夕方に、立って」測る
「大きめを選べば楽だろう」と買ったら、かえって脱げやすくなったという声はよく聞きます。まずは紙の上に立ち、かかとから一番長い指の先までの長さ(足長)を測ってみましょう。むくみやすい方は、一日の終わりの夕方に測ると実際に近い数字が出ます。
スリッパは、かかとが浮かず、つま先に少しだけゆとりがある大きさが目安です。靴下は表示サイズを足長に合わせて選び、余ってしわが寄るほど大きなものは避けます。左右で足の大きさが違うことも多いので、両足を測っておくと安心です。
買って終わりにしない|お手入れと買い替えのサイン
滑り止め加工は、洗濯を重ねるうちに少しずつ弱くなります。洗濯ネットに入れ、乾燥機の熱は避けて陰干しにすると、持ちがよくなります。
買い替えの時期は、次のようなサインが目安です。帰省のたびに、親御さんと一緒に足元を見てみてください。
- 足裏のゴム粒が薄れて、指でなぞるとつるつるしてきた
- 靴下の裏やかかとの生地が薄くなり、透けて見える
- スリッパのかかとが潰れている、底が片側だけ減っている
離れて暮らしていると、「まだ履けるから」の一言を前に、買い替えを言い出しにくい気持ちはよくわかります。次の章では、そんなときの切り出し方を具体的にご紹介します。
「替えて」と言わずに、足元の話を切り出すには
帰省したときは、気づきを一緒に眺める
買い替えの話は、「危ないから替えて」と切り出すより、気づいたことをそっと共有するほうがうまくいきます。たとえば台所で並んで立っているときに、こんなふうに声をかけてみてください。
「お母さん、この靴下の裏、ちょっとつるつるしてきたね。私も新しいのを買うから、一緒に選びに行かない?」
「危ない」「年だから」といった言葉は、本人の自尊心を傷つけてしまうことがあります。「一緒に」「私も」と添えると、対等なお誘いとして受け取ってもらいやすくなります。

会えないときは「贈る」と「電話」の組み合わせ
すぐに帰省できないなら、滑り止め付きの靴下を宅配で数足送るのも立派な支援です。「試してみて、履き心地を教えてね」と一言添えれば、押しつけにはなりません。
届いた頃合いを見て、電話でこう聞いてみましょう。
「この前送った靴下、どうだった? きつくなかった?」
感想を聞くうちに、「最近、廊下でふらっとすることがあってね」といった暮らしの様子が、ぽろりと出てくることもあります。靴下の話をしたつもりが、さりげない見守りの機会にもなるのです。
玄関やたたきとの境目で滑る場合は、玄関の滑り止めマットの選び方もあわせてご覧ください。
良かれと思って選びがちな落とし穴
転倒予防のつもりが、かえってリスクを増やしてしまうこともあります。次の4つは、家族が見落としやすい例です。
- 「ゆったりして楽だから」と、大きすぎるサイズを選んでしまう
- 見た目が気に入らず、新しい靴下を履かずに古いものを使い続ける
- 寒さ対策で靴下を二枚重ねにして、生地同士が滑る
- 入浴後、濡れた足のままスリッパを履いてしまう
とくに重ね履きは見落とされがちです。防寒のつもりが、二枚の生地がずれて逆にバランスを崩すことがあります。足首まで暖かい厚手の一枚に替えるか、腹巻やひざ掛けなど別の方法で温めるほうが安全です。この点は親の冷え対策|腹巻・ひざ掛け選びにもまとめています。
夜中にトイレへ立つときは、暗さと寝起きのふらつきで、足元の油断がさらに出やすくなります。廊下や寝室の足元が暗いようなら、足元センサーライトの選び方も参考にしてください。
過去に転んだことがある、足のしびれやむくみが続いている、歩き方が以前と変わってきた——そんなときは、靴下やスリッパを替えるだけで済ませないでください。かかりつけ医や、お住まいの地域の地域包括支援センターに相談することをおすすめします。歩き方の状態に合わせたリハビリや、住まいの段差・手すりの相談につながることもあります。

よくある質問
畳やカーペットの部屋でも、滑り止め靴下は必要?
畳やカーペットはフローリングほど滑りませんが、生地がすり減った靴下だとつま先が引っかかりやすくなります。床の種類にかかわらず、靴下そのものの状態は確認しておくと安心です。
何足くらい用意しておけばいい?
洗い替えを考えて、靴下は3〜4足、スリッパは自宅用に2足ほどあると安心です。交互に使えば、生地の傷みも分散できます。
まとめ|次に実家へ帰ったら、靴下の裏を見せてもらう
転倒予防と聞くと、手すりの工事や大きな道具を思い浮かべがちですが、最初の一歩は親御さんの足元をちらりと見ることだったりします。靴下とスリッパは、比較的手軽に、今日から替えられる対策です。
大切なのは「まだ履けるから」を放っておかないこと。滑り止めの状態を見て、足のサイズを測り直し、傷んでいたら一緒に選び直す。その小さな積み重ねが、これからの寒い季節の足元を支えてくれます。
次にお電話するときは、「最近、靴下どんな感じ?」と一言だけ聞いてみてください。そして次の帰省では、靴下の裏とスリッパのかかとを、そっと見せてもらいましょう。
この記事の執筆者について
介護福祉の現場で22年以上、訪問介護や高齢者施設での勤務、自宅での家族介護を経験してきました。現在も遠方に暮らす高齢の家族がおり、「離れて暮らす家族を見守る」ことの難しさを実感者として日々感じています。本記事も、そうした現場と実生活の両方の経験をもとに執筆しています。


